石戸谷結子の世界オペラ散歩21 ストラスブールのラン国立劇場で観たポップな「魔弾の射手」

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2019年07月12日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第21回は、フランス、ストラスブールのラン国立劇場の「魔弾の射手」をご紹介します。

 

最後の授業」でお馴染みのストラスブール

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ストラスブールといえば、ドーデが書いた短編小説「最後の授業」を想い出す人がいるかもしれない。昭和60年までは、教科書に載っていたお馴染みの物語だ。ストラスブールはドイツとフランスの国境に位置し、戦争のたびに、ドイツ領になったりフランスになったりと、不幸な運命に翻弄されてきた。いまはフランスだが、アルザス・ロレーヌ地方として独自の文化を育んできた。醱酵キャベツをソーセージなどと煮込んだシュークルートや柔らかいパンのようなクグロフなど、おいしい名物も多い。近郊には広大なワイン畑が広がっていて、シュッと細長い瓶が特徴のアルザス・白ワインも爽やかでおいしい。

 

 

 

 

ラン国立歌劇場のポップな「魔彈の射手」

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そんなストラスブールはオペラも有名だ。近郊の2つの町と共同で運営される「オペラ・ナショナル・デュ・ラン(ラン国立オペラ劇場)で、街の中心に立派な歌劇場が建っている。2018年の3月には二期会と共同で黛敏郎のオペラ「金閣寺」が宮本亜門の演出でプレミエ上演され、大成功を収めている(日本では2019年2月上演)。復活祭の時期にバーデンバーデンに行ったあと、ストラスブールを訪ねた。列車なら1時間弱、バスでも1時間ほどだ。

 

 

 

 

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今回観た演目は、ウェーバーの「魔彈の射手」で、この日は精鋭で知られるヨッシ・ヴィーラー&セルジュ・モラビト演出のプレミエだった。内部は三層の馬蹄形をした古典的でこじんまりした劇場。どの席からも声は良く聴こえる。指揮は若手のパトリック・ランゲで、歌手ではアガーテ役のルネケ・ルイテンはザルツブルグ音楽祭でも活躍する実力派歌手だが、他のキャストは若手が中心。幕が開くとそこは現代のローカルな村の広場だが、カラフルにデフォルメされたアニメのような世界。ナマハゲ?やイノシシなどが登場する村の秋祭りのようだ。派手でポップな衣裳を着た若者が中心で、観ていて飽きないが、テーマは最後まで不明。現代の若者たちの奥に潜む森(未知)への畏敬? イコール現代社会への恐怖ということだろうか。歌手ではマックス役のヨッシ・マイリス、カスパール役のダヴィッド・ステフェンスが若々しい声で好感がもてた。ヴィーラー&モラビトはドイツのシュトットガルト歌劇場などで活躍するレジーテアーター系の演出家。難解な舞台が特徴だが、今回は映像やCGを使って若者好みのポップな舞台に仕上げているのが興味深い。たくさんの写真があるので、テーマの謎解きに挑戦して下さい。

 

 

 

 

コルマールの「イーゼルハイムの祭壇画」

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ストラスブールで有名なのは、まずはノートルダム大聖堂だ。あっと驚くほどに壮麗な大聖堂で、装飾が繊細で凝っている。完成までに400年ほどを経て、現在の形になったという。ちょうどパリのノートルダム寺院の尖塔が焼け落ちた直後だっただけに、追悼ミサが行われ、お参りに訪れる人が後を絶たなかった。内部には精巧な仕掛けの天文時計があり、時間になるとからくり人形が動き出す。続いて木骨組みの古い家並みコロンバージュが続くプティット・フランスも必見。イル川を下る遊覧船に乗ると、ストラスブールの旧市街を船のなかから観ることができる。そしてワインと美味しい食事がストラスブールの名物だ。アルザスの辛口の白ワインには、シュークルートがぴったりだ。
 

 

 

 

 

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近郊には美しい村々が控えているが、美術好きには絶対見逃せないのが、コルマールのウンターリンデン美術館。コルマールはストラスブールからは列車なら30分ほどの距離だ。そこには16世紀の画家、グリューネヴァルトの傑作「イーゼルハイムの祭壇画」(写真上二点)がある。キリストの生涯が描かれた観音開きの大きな祭壇画で、いまは分解して展示されている。マティアス・グリューネバルトの本名はマティス・ゴートハルト・ナイトハルトらしいが良くは分かっていない。この不思議な画家をモデルにしたのが、パウル・ヒンデミットのオペラ「画家マティス」だ。台本もヒンデミットが手がけており、いかにグリューネヴァルトに心酔していたかが分かる。コルマールは木骨組みの古い家が続き、小さな川が流れる小さな美しい街で、小舟で街をまわることもできるので、小ヴェニスとも呼ばれている。いまは街歩きと貴重な祭壇画を観るため、世界中から観光客が押し寄せている。

 

 

 

石戸谷結子
Yuiko Ishitoya, Music Journalist

青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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