鹿島茂氏のコレクションでパリの変遷を辿る『19世紀パリ時間旅行―失われた街を求めて―』

カテゴリー/ PARIS |投稿者/ Gouret&Traveller
2017年04月25日

フランス文学者の鹿島茂氏(明治大学教授)による「失われたパリの復元」(『芸術新潮』連載)をもとにパリの歴史をひもとく『19世紀パリ時間旅行―失われた街を求めて―』が、2017年6月4日(日)まで練馬区立美術館にて開催中だ。ナポレオン3世(1808-73/在位:1852-70)がセーヌ県知事に就任したオスマン男爵に命じてパリの大改造が行われて以降、パリの景観は激変したが、鹿島茂氏の多数の個人コレクションや美術館所蔵の絵画、衣装などさまざまな資料を通して、オスマンの改革以前・以後のパリの変遷をたどる。

 

 

IMG_7124パリの歴史は古く2500年以上におよび、ノートルダム大聖堂やルーヴル宮など現在もパリを代表する建築物は1180年からのフィリップ2世の治世下、12世紀から建造が始まっており、はるか昔に造られた建物が今も多く残存しているが、現在のパリの町の基礎を整えたのは、第二帝政期(1852-70)に皇帝ナポレオン3世がオスマン男爵に命じて着手した「パリ大改造」(1853-70)によるものだ。現在われわれが目にするパリの姿はこの大改造によって形成されたが、それ以前はどのような景観の町だったのか。本展覧会では、時を遡りながら古地図や絵画、銅版画などで古いパリの景観を追う。「バルザック(1799~1850年)、ユゴー(1802年~1885年)、フロベール(1821~1880年)らの専門家としては、その時代のパリを見てみたいという思いがあった」という鹿島茂氏がパリで探し歩いた古地図や町の様子を描いた銅版画など貴重なコレクションが紹介されており、知られざるパリの町並みを時代を超えて俯瞰することができる。

 

IMG_7103今回の展示の約3分の1は鹿島茂氏の個人コレクションで、もっとも古くは1100年頃のパリの町を描いた古地図をはじめ、珍しい資料も多数展示されていているが、なかでも鹿島氏がこの展覧会を開催するにあたり、「これを紹介したいがために展覧会のテーマを決めた」という貴重な銅版画が、アドルフ・マルシアル=ポテモンの300枚の銅版画のなかからセレクトされた60枚である。

 

アンリ・ルソー《エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望》1896-98年 油彩、カンヴァス ポーラ美術館

アンリ・ルソー《エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望》1896-98年 油彩、カンヴァス ポーラ美術館

大改革を経て1870年代に入り、印象派をはじめとした画家たちがこぞってパリの景観を描くようになった。新しいパリは創作の源となり、近代美術への扉を開いたが、一方では、昔ながらの街並みや消滅したコミュニティを懐かしむ傾向も強かった。そんなユゴーやバルザックに描かれたかつてのパリの姿を伝える版画連作、懐かしいパリの路地風景を版画におこしたアドルフ・マルシアル=ポテモン(1828-83)の『いにしえのパリ』(1866)は、鹿島茂氏の個人コレクションのなかでも価値の高い作品だ。

 

モーリス・ユトリロ《モンマルトルのキュスティーヌ通り》1938年油彩、カンヴァス松岡美術館

モーリス・ユトリロ《モンマルトルのキュスティーヌ通り》1938年 油彩、カンヴァス 松岡美術館

 

 

アドルフ・マルシアル=ポテモン《ロラン=プラン=ガージュ通り(袋小路)》1864年エッチング、紙(『いにしえのパリ』1866年より)鹿島茂コレクション

アドルフ・マルシアル=ポテモン《ロラン=プラン=ガージュ通り(袋小路)》1864年エッチング、紙(『いにしえのパリ』1866年より )鹿島茂コレクション

この作品はたいへん珍しい銅版画群で、鹿島氏によると10年に1度売りに出されるかどうか。長年探していた鹿島氏がようやく300枚が100枚ずつ製本されている版を見つけて喜んで買い求めたところ、ほかにもう1セット300枚バラで売っている版が売りに出ているのを発見。さんざん悩んだあげく、その当時の給料の半年分をつぎ込んで、2つの版を買うことにした。まとまっている版は自分の資料用にし、バラになっている版はいずれ人に見てもらいたい、という思惑のもと購入。ところが、バラになっている版は300枚セットのはずが、数えてみると299枚しかない。足りない1枚を探し歩いてようやく見つけて完全版になった。そんな苦労を乗り越えて本展で紹介されることになったという裏話もあり、見逃せない作品である。

 

また、鹿島氏の個人コレクションのなかで、これは見ないと損、という銅版画が、昔のパリオペラ座のファサードを描いた作品。現在のパリ・オペラ座は建築家ガルニエ作の煌びやかな建築だが、昔のオペラ座は地味だったがために、誰も描かなかったのか、資料が残っていなかった。長年想像するしかなかったオペラ座の外観を描いた銅版画を見つけ、ようやく飾り気のない旧オペラ座のビジュアルを確認することができたという。

 

長年、パリを研究していると、入手すべきレアで見つけにくい資料がわかってくるという鹿島氏。「探しているものは必ず見つかる」という信念で地道にパリの古書店を訪ね歩いて探してきたが、現時点では、必要な資料はほぼ入手できたのではないか、と思われる域にまで到達した。今回はそうした鹿島氏のコレクションの集大成から厳選した資料を見ることができる貴重な機会。時空を超えたパリへの旅をぜひ楽しんでほしい。

 

文*山下美樹子

 

IMG_7107練馬区独立70周年記念展 『19世紀パリ時間旅行―失われた街を求めて―』
会 場:練馬区立美術館
会 期:2017 年4月16日(日)~6月4日(日)
休館日:月曜日
開館時間:10:00~18:00 ※入館は17:30まで
観覧料:一般800 円、高・大学生および65~74 歳600 円、
中学生以下および75 歳以上無料(その他各種割引制度あり)
(一般以外の方は年齢確認できるものをお持ちください)
http://www.neribun.or.jp/museum.html

 

 

 

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