石戸谷結子の世界オペラ散歩③ グラインドボーン初演「イペルメストラ」「ハムレット」

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2017年08月15日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡り、オペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」。第3回目は、世界三大音楽祭のひとつ、ロンドンから電車で約20分で行ける貴族的で優雅なグラインドボーン音楽祭、「イペルメストラ」「ハムレット」初演2作のレビューです。

 

 

★新作初演オペラと、イギリス初演オペラ

グラインドボーン6月公演の話題は、イギリス初演となるカヴァッリの「イペルメストラ」と、ブレッド・デーンの新作「ハムレット」の2作。どちらも全く知られていない上級者コースのオペラだ。そのせいか、珍しくチケットは売れ残っていた。

カヴァッリは17世紀にイタリアで活躍したバロック音楽の作曲家。近年ようやく上演されるようになったが、「イペルメストラ」の全曲はCDもDVDもまだない。指揮者のウィリアム・クリスティがイギリス初演を行うことで、話題を呼んだ。

 

 

 

 

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公演当日は快晴だったので、1時間ほど早めに到着し、庭をお散歩していたら、中東風の衣装を着けた花嫁と花婿のカップルに出会った。あわててシャッターを切ったが気が付くと庭のあちこちに同じようなカップルが出没している。その訳は、「イペルメストラ」の幕が開いて納得した。じつは多数の花嫁花婿カップルが、演出の一環として庭でデモンストレーションしていたのだ。幕が開くと50組の集団結婚式から物語がスタートした。

 

 

 

 

 

A scene from Hipermestra by Francesco Cavalli @ Glyndebourne. Directed by Graham Vick. Conductor, William Christie. (Opening 20-05-17) ©Tristram Kenton 05-17 (3 Raveley Street, LONDON NW5 2HX TEL 0207 267 5550  Mob 07973 617 355)email: tristram@tristramkenton.com

演出は有名なグラハム・ヴィック。お話はギリシャ神話のヒュペルメーストラーのエピソードに由来する。アルゴスの王ダナオスには50人の娘がいて、弟のエギットには50人の息子がいた。二人は王位を争っていたが、和解のため50人の娘と息子を結婚させることにした。しかしダナオスは娘たちに剣を渡し、初夜に夫を殺すよう指示した。しかし長女のイペルメストラだけは、夫のリンチェオを愛してしまい、殺さず逃がした。怒った父はイペルメストラを投獄した。

 

 

 

 

リンチェオは兵を率いてイペルメストラを救出しようとするが、彼女は塔から身を投げる。しかし奇跡が起き、最後はハッピーエンドで終わる。演出家のヴィックは物語を現代の中東に置き換え、不屈の精神を持つイペルメストラの愛の強さに焦点をあてた。クリスティはチェンバロを弾きながら指揮するが、中東の衣装を着けて、時には物語に参加する。音楽は優しく美しいメロディがいっぱいで、聴きごたえ見ごたえある素晴らしい舞台が繰り広げられた。イペルメストラを歌ったエメーケ・バラートはよくとおる声を持ち、強い表現も可能な注目のソプラノ。今年の11月に来日して、アッシジの聖フランチェスコの天使の役を歌う。(©Tristram Kenton)

 

 

 

 

翌日の「ハムレット」は現代音楽だが、どちらかといえば劇的展開に乏しく、シェイクスピアの物語を忠実になぞるストーリー。お目当てはオフェーリア役のバーバラ・ハンニガンだったが、オフェーリア狂乱の場はあったものの、肝心のアリアがなく、ちょっと期待はずれだった。ハンニガンはカナダ出身のコロラトゥーラ・ソプラノで、声は透明ですばらしく巧い。ほっそりとした美貌の持ち主で、

現代音楽が得意。リゲッティの「グランマカーブル」のコンサートでは早変わりなどで観客を楽しませてくれる芸達者だ。

(写真上  グルトルーデ役のサラ・コノリーとオフェーリア役のバーバラ・ハンニガン。写真下  左からグートルーデ役のサラ・コノリー、クローデアス役のロッド・ジルフリー、ハムレット役のアラン・クレイトン   ©Richard Hubert Smith)

 

 

 

 

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というわけで、グラインドボーン体験。音楽は「イペルメストラ」が素晴らしく楽しく、1日貴族にはなり損ねたが、イングリッシュ・ガーデン散策と自然を存分に楽しんだ。
ところで、グラインドボーン音楽祭に行くなら、玄関駅のルイースの町に泊まることをお薦めします。ロンドンからルイースまでは片道1時間なので、音楽祭を観たあと、ロンドンまで日帰りもできる。終演後はシャトル・バスがルイースの駅まで運んでくれて、列車は1時間おきくらいに深夜まである。しかし、ルイースは小さいけれど、エレガントな街で、立派なホテルも数件ある。また20軒ほどのB&Bがあり、リーズナブルに宿泊が可能だ。レストランや大きなスーパーマーケットがあり、2-3日過ごすにはパラダイスのように楽しい。いくつかの公園を散策したり、アンティーク・ショップがたくさんあるので、のぞくのも楽しい。食器やアクセサリー、古いリネンのテーブルクロスもお薦めです。

 

 

 

 

 

石戸谷結子(音楽評論家)
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

 

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