石戸谷結子の世界オペラ散歩⑩フェニーチェ歌劇場「ドン・ジョバンニ」、ローマ歌劇場「フラ・ディアボロ」

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2018年01月01日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡り、オペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第10回目は、フェニーチェ歌劇場「ドン・ジョバンニ」、ローマ歌劇場「フラ・ディアボロ」のレポートです。

 

 

 

フェニーチェ歌劇場で評判のミケエレット演出の「ドン・ジョバンニ

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ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場で見たのは、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。フェニーチェ歌劇場は観光客にも門戸を広く開き、「椿姫」などの人気演目を常時上演して、人気を保っている。この演目もプレミエは2010年5月だが、ダミアーノ・ミケエレットの演出が評判を呼び、再演を繰り返している。舞台はすべて室内で、部屋の壁が次々と動いてシーンを変えていくという、なかなか巧みな設定だ。

 

 

 

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性的魅力が強いドン・ジョヴァンニは、アクティブで若々しいが、何かに駆り立てられているように落ち着きがない。支配欲が強く暴力的で、それだけにカリスマ的魅力にあふれた人物だ。ドン・ジョヴァンニの心理描写に重点を置いているので、他の人物描写が描ききれない恨みはあるが、ミケエレットの演出の中では成功した例だろう。

 

 

 

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この舞台ではドン・ジョヴァンニが魅力的でなければいけないが、アレッサンドロ・ルオンゴはすらりとしてセクシーなバリトンで、なかなかの美声だし、演技力もある。特筆したいのはドン・オッターヴィオ役のアントニオ・ポーリ。若いころから注目され、多くの舞台で活躍してきたが、これまではちょっと線が細かった。しかし、彼は成長した(声だけでなく体型も)。声量も充分で、表現も深くなり、ようやくイタリア・イチオシのテノールとして花開いた。

 

 

 

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ドンナ・アンナを歌ったのは、フランチェスコ・ドット。なかなかの美人で声は細いのだが、演技力も表現力もある。この3人はイタリア期待の若手歌手らしく、2018年のローマ歌劇場公演でも来日し、「椿姫」と「マノン・レスコー」に出演する。指揮のステファノ・モンタナーリは何度か来日し、日本でもお馴染みの古楽系の指揮者。バロック・ヴァイオリン奏者としても活躍しているだけに、躍動感のある生き生きとした指揮で、舞台にも活気がみなぎる。同時期に観たローマ歌劇場もフェニーチェ歌劇場も、厳しい予算のなかで頑張っていると感じた。さすがはイタリア・オペラの本場。長い伝統があるだけに、不況を吹き飛ばすだけの底力はあるのだ。

 

 

 

ローマ歌劇場 曲家、オーベール作曲のオペラ・ブッファ「フラ・ディアボロ」映像も巧みな楽しいラブコメ

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かつてはミラノのスカラ座とならび、オペラ・ファンあこがれの歌劇場だったが、数十年ほど前から低迷を続けていたローマ歌劇場。しかし数年前にリッカルド・ムーティが名誉指揮者に就任して勢いが復活したかに見えたが、国の経済の低迷から頼みの綱のムーティが辞任してしまったのが現状だ。とはいえ、永遠の都である首都ローマの歌劇場だけに、さすがに興味深い公演が続いている。今回観たのは、フランス・グラント・オペラの作曲家、オーベール作曲のオペラ・ブッファ「フラ・ディアボロ」だ。怪人二十面相や怪傑ゾロ、また鼠小僧次郎吉など、盗人でありながら、なぜか民衆には人気の盗賊が、フラ・ディアボロだ。かつて大正年代の浅草オペラ華やかなりし頃、田谷力三などによって歌われ、大ヒットしたのが「ディアボロの歌」だ。「ディアボロ、ディアボロ、ディアボロ」と彼の名を讃えて歌う、調子の良い唄だ。日本では数年前に新国立中劇場で上演されたが、さほど感心しなかった。しかし今回、演出は漫画的な装置と映像(これがオール3Dプリントによるそうだ)を巧みに使って軽快で、捧腹絶倒の楽しいラブコメディに仕立てあげた。予告ではソニア・ガナッシといま注目のコロラトゥーラ・ソプラノ、プリティ・イエンデが出演とあったので、楽しみにしていたが、二人ともキャンセル。有名歌手では主役のジョン・オズボーンとバリトンのロベルト・デ・カンデアが出演した。最近のオペラは映像を使用するのが流行だが(というか主流になった)、成功例は少ない。しかしこの舞台はアイディアが楽しく、映像が奇想天外で面白く、さすがはイタリアらしいしゃれっ気が感じられる。ジョン・オズボーンは憎めない盗賊を軽快に演じ、輝かしい高音も充分聴かせて、舞台を盛り上げた。この舞台は評判になっているようで、座ったボックス席の他の4人は、ロンドンから来た観客だった。

© photo Michele Crosera フェニーチェ歌劇場

 

石戸谷結子(音楽評論家)
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

 

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