『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』熱帯に惹かれた画家の愛と苦悩の日々を描く

カテゴリー/ PARIS |投稿者/ Gouret&Traveller
2018年01月16日

『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』
2018年1月27日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー

ポール・ゴーギャン生誕170周年を記念し、19世紀フランスを代表する画家ゴーギャンがその後の人生に深い刻印を残し、作品スタイルをも決定づけたタヒチでの暮らしを描いた。エドゥアルド・デルック監督がゴーギャンの書いたエッセイ『ノアノア』をもとに、ゴーギャンが実際に滞在した1891年から1893年までの史実に虚構を織り交ぜ詩情豊かに物語を織り成す。
タヒチでの愛と苦悩の日々を演じるのは、『ブラック・スワン』のヴァンサン・カッセル。単なる伝記映画を超えて「自由に脚色を加えた」というデルック監督のゴーギャンに対する解釈が大きく反映し、ロマンチシズムにあふれた叙情詩になった。

ゴッホ、セザンヌらと並ぶ後期印象派の一人であり、特にゴッホとは1888年の一時期、共同生活をしながら創作に励んだことで知られるゴーギャンだが、はじめから画家を目指していたわけではない。
フランスパリで株式仲買人として働きながら、趣味で絵を描きはじめる。1882年にパリの株式市場が大暴落すると、それまでの裕福な生活は一変する。ゴーギャンは画家を本業にしようと考えるが、贅沢に慣れていた妻や子どもたちはゴーギャンのもとを去ってしまう。サロンに入選し、画家としての成功に自信を見せていたゴーギャンの作品は、既存の模倣と見なされ、評価されなかった。

 

 

 

 


パリには描きたい題材がない、と絶望に打ちひしがれたゴーギャン。折しもパリ万博で植民地のエキゾチシズムを目の当たりにし、熱帯への夢想が沸き立つ。野生を切望し、作品のモチーフにも異国情緒と神秘を持ち込んだ画家として名をなすゴーギャンは、すべてを捨て南の島に渡る。
パリを模した都会、首都パペーテに落胆し、ジャングルの奥深く分け入った村で、ついに“原始のイヴ” テフラに出会う。テフラこそゴーギャンが求めていたアンチ西洋のミューズ。彼女をモデルとして数々の作品を生み出していく。“熱帯のアトリエ”は、不毛な都会での生活に疲れ果てたアーティストに漲るような生気を与えた。想像力を刺激する力、大胆な色使いなど、ゴーギャンのインスピレーションは息を吹き返す。
白眉のシーンは、エロティックでシュールな夜の闇。タヒチの夜は精霊に支配される。アニミズムの染み込んだマオリ族の文化をシャーマニズムを含むかたちで生き返らせたいと考えたデルック監督は、その手法に影響を受けた監督として、「2つの目の窓」を撮った河瀬直美を挙げている。

実在の画家をモチーフにした映画の醍醐味は、傑作の誕生シーンを見られることだ。プーシキン美術館所蔵の「アハ・オエ・フェイイ? (「あなたは嫉妬している?」) やメトロポリタン美術館「イア・オラナ・マリア」(「マリア礼賛」)ほか多数の名作が生まれるシーンが登場する。
モデルとなったテフラを演じた、17歳のツイー・アダムスは、監督に「天からの贈り物」と言わしめた逸材。南国の倦怠、物憂さ、優雅さを持ち合わせ、まるでゴーギャンの作品から飛び出してきたかのごとく野性味溢れる美しさだ。

 

 

 

 

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映像は南国の光に映える碧い海や空、ジャングルの緑がまぶしい極彩色はない。新天地でみずみずしく野趣あふれる理想のモデルを見つけ、新たな創作活動を送るはずも、貧困により肉体労働も余儀なくされた画家の葛藤を表すような陰りのある色調で全篇彩られる。

ゴーギャンを代表する作品を次々と生み出したタヒチ時代だが、監督が描くのは、ゴーギャンの敗北だ。ゴーギャンは野生との一体化を望んだが、自然はそれを拒んだ。テフラとの愛が色褪せるにつれて、創造性も失われていく。

飢餓感からすさんだ目をしたパリでのゴーギャンが、タヒチでは別人のように生き生きとした表情になるヴァンサン・カッセルは、役作りのため体重を落とし、ビジュアルもゴーギャンそのものだ。絵や彫刻も勉強してこの役にのぞんだ。感情をそのままに写す迫真の”眼力”が、観る者にゴーギャンの心の叫びを強く印象付ける。

 

 

 

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『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』


監督・脚本:エドゥアルド・デルック

脚本:エチエンヌ・コマール、トマ・リルティ

撮影:ピエール・コットロー

主演:ヴァンサン・カッセル、マリック・ジディ、ツイー・アダムス

原題:Gauguin Voyage de Tahiti

© MOVE MOVIE – STUDIOCANAL – NJJ ENTERTAINMENT

文*山下美樹子

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