緑あふれる庭園美術館でロマンに浸る「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」

カテゴリー/ PARIS |投稿者/ Gouret&Traveller
2018年05月01日

鹿島茂コレクション フランス絵本の世界

French Picture Books : Collection of Shigeru Kashima
東京庭園美術館 6月12日(火)まで

 

「シンデレラ」や「長靴をはいた猫」などを集めたペローの『童話集』、ヴェルヌの冒険物語など、フランスの絵本は、世界中で親しまれている。フランス文学者の鹿島茂氏は30年以上にわたりこうした絵本を収集し続けてきた。今回、これまで秘蔵されてきたフランスの子どものための絵本コレクションを初公開する。アール・デコ様式の建物として国の重要文化財に指定されている庭園美術館の本館(旧朝香宮邸)は、緑あふれる庭園も広がり絵本の世界のように牧歌的。そんな非日常の雰囲気のなか、絵本の世界を探訪してみたい。

 

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鹿島茂氏 (明治大学教授、フランス文学者) 講演会  「フランスの絵本ーKawaiiとB.D (バンド・デシネ)の起源」

 

 

本展ではフランスの挿画入り児童書を、19世紀から20世紀半ばにかけて概観する。鹿島氏がプライベートコレクションをイラストレーター別に、かつクロノロジックに配列。歴史上重要な絵本や児童書のイラストレーターが、小さな扱いになっていることもあり、客観的なフランス児童書の歴史ではないと鹿島氏は語る。コレクションが始まったときは取り上げられなかったイラストレーターたちの作品も相当数収集されていたのだが、コレクションが進むにつれて、鹿島氏による「集中と選択」が行われ始めた。主たる分かれ目は新しい絵本や児童書の時代を作ったイラストレーターか否かの違い。つまり、時代を画すかどうか、という点において選択が行われ、その結果プライベートコレクションが絵本や児童書のイラストの歴史と重なり始めたという。本展覧会は鹿島氏のコレクションの史観によるフランス絵本の世界。選択が偏りすぎるということも考慮し、最後の章では歴史上重要なイラストレーターの作品も集められている。

 

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6章に分かれている展示の1章は、「子どものための絵本ー19世紀の雑誌・絵本と民衆版画」。フランスでは18世紀になってようやく「子ども」という概念が誕生する。子どもを意識した本が作られるのはそれ以降。この頃、思想の背景にあったのは、「子どもは教育で理性に導かれなければならない存在」という考え方だった。そのため子どもの読み物は、教訓を伴った『ラ・フォンテーヌの寓話 』(1668年)、『ペロー童話集』(1697年)などだった。
18世紀半ばになるとジャン=ジャック・ルソーが感情を豊かにすることが教育の手段だと唱えると、ルソーに学んだ児童文学者たちは娯楽と道徳を融合した教育論を主張するようになる。その考えのもと、アルノー・ベルカンは1782年に雑誌『ラミ・デ・ ザンファン (子供の友)』を創刊した。挿絵を用いたこの月刊誌は、児童文学雑誌の先駆とみなされるものになった。

 

 

 

frenchpicturebooks_02ジュール・ヴェルヌ著/エドゥアール・リウ、アルフォンス・ド・ヌヴィル絵 『海底二万里』1910年頃(1869年初版)©NOEMA Inc. Japan

1836年に公の初等教育が始まり、読書をする子供の数も増えていくと本の出版が進んだ。銅版画に加え、木口木板、リトグラフなど多様に複製技法が発達。その傾向に拍車をかけた。子供向けの雑誌も急増し、その中で長く続いたのが『ジュルナル・デ・ザンファン(子ども新聞)」である。執筆陣にはユゴー、ゴーティエ、挿絵画家としてはグランヴィルら、当時、勢いがあった文学作家や画家が名を連ねた。子供のための本作りが本格的に始まったのがこの頃である。 

 

 

 

frenchpicturebooks_03P.-J.スタール著/ロレンツ・フルリック絵『双子』出版年不明(1883年初版)より ©NOEMA Inc. Japan

フランスにおいて子どもの本の時代が到来するのは19世紀半ば。出版社であり編集者、またP.-Jスタールの筆名で作家としても活躍したエッツェルが、ジュール・ヴェルヌを発掘し、『ペロー童話集』(ギュスターヴ・ドレ画、1861年)など歴史に残る児童書を誕生させた。エッツェルがテクストを書いた「リリちゃん」をはじめとする子どもたちが主人公のシリーズで、「アルバム・スタール」という叢書を出版、人気を博した。字がまだ読めない子供に、絵で内容を理解できる絵本を与え情操教育を行うという絵本教育理念はこの頃成立した。

 

 

 

 

frenchpicturebooks_04アナトール・フランス著/モーリス・ブテ・ド・モンヴェル絵『われらの子どもたち』 1887年より©NOEMA Inc. Japan

1880年代から1910年代前半にかけて19世紀の美学が支配的だった時期に時代に先駆けて洗練されたモダンな絵本を生み出したのが、モーリス・ブテ・ド・モンヴェルである。モダンな要素とは、ジャポニズムの影響を受けた、遠近法にとらわれないフラットな表現で、大胆な省略と強調により二次元表現を際立たせることであった。モンヴェルは、1876年の結婚を機に挿絵の仕事を始めて子どもの世界を繊細なタッチで描き、時代を先駆けた。ジャンヌ・ダルクの挿絵本 (1896年)という傑作を残している。イタリア・ルネサンスの古典絵画にならって壮大な構図と色調で書き上げた49枚からなる同作品は、晩年の代表作となった。

 

 

 

 

frenchpicturebooks_05ガストン・シェロ(序文)アンドレ・エレ(本文)著・絵『80ページ世界一周』 1927年より©NOEMA Inc. Japan

20世紀になるとテクストの分量が減り、イメージに重きを置く方向性が現れる。新聞には「バンド・デシネ」(漫画)が掲載され、子供たちは文字より先にイメージを受け入れていく。
当時は、1冊の雑誌の中に世紀末のアール・ヌーボー様式、写真を使った記事、19世紀の風刺画、若い世代の新感覚に溢れたイラスト、など多様なスタイルのイメージが同居していた。そうした雑誌を舞台にして頭角を現し、その後、絵本の分野において、20世紀視覚芸術の異なる方向への道を切り開いた2人のイラストレーターが、アンドレ・エレ、バンジャマン・ラビエである。
エレが、自筆の文字、デフォルメした動物のイラストを大胆に描いた『大きな動物、小さな動物 』(のちに『ノアの方舟』として出版) はモダンなアーティストブックとなった。
ラビエは、動物を得意とし、ラビエの最初の絵本『腕白タンタン』はベルギーのエルジェのバンド・デシネ、『タンタン』に影響を与えたとされる。ラビエは、絵本からバンド・デシネやアニメーションといった新しい視覚表現への橋渡しの役割を果たした。
 端正で繊細な挿絵を描いたブテ・ド・モンヴェル、アール・デコ全盛期に活躍したアンドレ・エレ、漫画やアニメーションの先駆者バンジャマン・ラビエら、フランスの華やかな絵本の時代を築いた人気作家たちの作品は、本展の大きな見どころだ。

 

 

 

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1930年代に入ると、フランスの絵本は、今日まで世界中で愛され続けるシリーズを生み出す。31年の発売直後から人気を博したジャン・ド・ブリュノフの『ぞうのババール』と、工作絵本や教育絵本で知られるポール・フォシェが編集した絵本叢書「ペール・カストール(ビーバーおじさん)文庫」である。

 

 

 

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ナタリー・パランは「ペール・カストール」を代表する絵本作家。絵本だけでなく原画も多く展示されている。ちなみに鹿島氏の奥様もナタリー・パランのコレクターだという。パランら、絵本の先進国であるロシアや東欧出身の画家を起用し、着せ替えやぬり絵、教育絵本を出版した「カストール文庫」、1931年の発売直後から人気を博した『ぞうのババール』シリーズなど、誰でも見たことのある絵本の出版当時の味わいを堪能できるのも魅力だ。

 

 

 

 

frenchpicturebooks_06バンジャマン・ラビエ著・絵『アゾールとミスティグリ』出版年不明(1911年初版) ©NOEMA Inc. Japan

6章は「様々な子どもの絵本と子どものイメージ」と題し、ラビエによって開かれた、バンド・デシネとアニメーションの表現へ向かう新しい道の枝分かれを紹介していく。

あわせて、東京都庭園美術館では、1933年に竣工した旧朝香宮邸の建築物としての魅力を味わうことができる「建物公開展」を開催している。アール・デコに関する所蔵のコレクションを紹介するとともに、旧朝香宮邸にまつわる記録や展示品とともに世界的にも貴重な建築空間とその背景をゆったりと鑑賞できる。

 

 

 

 

 

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鹿島茂コレクション フランス絵本の世界

French Picture Books : Collection of Shigeru Kashima
2018年3月21日(水)-6月12日(火)
東京都庭園美術館 新館

東京都港区白金台5-21-9

JR山手線「目黒駅」東口/東急目黒線「目黒駅」正面口より徒歩7分
都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6分
03-5777-8600

第2・4水曜日(5/9, 5/23)休み
10:00–18:00 (入館は17:30まで)
一般    当日900円   団体720円
大学生(専修・各種専門学校含む)当日720円   団体570円
中学生・高校生   当日450円    団体360円
65歳以上   当日450円    団体360円

<同時開催> 建物公開   旧朝香宮邸物語

文*山下美樹子

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