忘れられない恋、再会がもたらす未来とは?「男と女 モントーク岬で」
2018年05月14日
「男と女、モントーク岬で」
5月26日より東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで順次ロードショー
アカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した「ブリキの太鼓」で世界にセンセーションを巻き起こし、その後、ヒューマンドラマや文芸大作で映画史に輝かしい足跡を残してきたフォルカー・シュレンドルフ監督の最新作は、作家のマックスとかつての恋人レベッカの切ない再会を描く大人のラブストーリーである。
映画は5分にも及ぶ印象的なモノローグで始まる。舞台のように散文的だ。この作品には多くのセリフが詰め込まれている。監督は、饒舌な脚本を映画の手法に置き換える。そのトーンはどこかフランス映画を喚起させる。
「撮影中多くのことが私にヌーベルバーグを思い出させた」とシュレンドルフ監督は語る。
フィリップ・クローデルやフランソワ・オゾンらの撮影を担当したジェローム・アルメーラ、「アメリ」や「ロングエンゲージメント」の編集者、エルヴェ・シュネイ。製作スタッフには、フランス映画界の精鋭が名を連ねる。監督自身もドイツ人ながら学生時代をフランスで過ごし、ルイ・マル、アラン・レネらの作品で助監督を務めるなど、フランスで映画製作の基礎を学んでいる。そこはかとなく、洗練されたその映像や男女の機微はフランス映画の佳作、クロード・ルルーシュの「男と女」を思い起こさせる。
マックスは新作のプロモーションのため一週間、ニューヨークで過ごすことになる。物語はこの一週間のできごとを追う。マックスが若き日、学生時代を送った懐かしい町、ニューヨーク。この町で実らなかった恋があった。自身の小説のなかにも登場するかつての恋人、レベッカにさっそく連絡を取 る。再会を果たす2人だったが、別れてから何があったのかレベッカは語らず、冷淡にマックスの問いをかわす。
失意のマックスに、レベッカからモントーク岬への旅の誘いが舞い込む。幸せだった頃の2人が訪れた場所だ。久々ともに過ごす夜、ひととき、「あのころ」にもどる。
事実婚の妻がいるにもかかわらずあっさり復縁に傾く未練たっぷりの男。きっぱり拒絶する女。離れている間に何があったのか、少しずつ明かされる。女はあくまで凛々しく、男はセンチメンタルだ。
果たしてレベッカの真意は? 彼女の秘密の過去とは――?
メランコリックなトーンでただ高い空と果てしない浜辺が続く。モントーク岬はアメリカ先住民の言葉で「陸地の終わり」を意味する。灯台が岬の先端の一番端にあり、常に感情を波立たせる特別な場所だ。いろいろな思いが無意識の中から現れ始め、誰しもが「あのころ」を振り返ってしまう。このストーリーの裏にはそんな普遍的な問いかけがある。大切なのは、失った「あのころ」への後悔に立ち向かう勇気だ。
ハリウッドでも広く活躍するスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルド、「東ベルリンから来た女」のニーナ・ホスら実力派俳優が格調高い芝居で魅了する。ニーナ・ホスの美しさと強さに空気が張りつめる。成功を手にした女性の洗練されたインテリアやファッションや車、比してモントークという場所の荒涼とした海辺の風景。灯台の優美さと海の色はやるせない。
過去の思い出はその海の彼方に置き去りにして、前を向いて2人はどんな道を辿るのか。失った時間への後悔に立ち向かう問いかけ。そこに答えはあるのだろうかーー。
文*山下美樹子
©Ziegler Film/Franziska Strauss
監督・脚本フォルカー・シュレンドルフ
撮影ジェローム・アルメーラ
編集エルヴェ・シュネイ
キャスト
マックス・ゾーン ステラン・スカルスガルド
レベッカ ニーナ・ホス
クララ スザンネ・ウォルフ
リンジー イシ・ラボルド
レイチェル ブロナー・ギャラガー
ウォルター ニエル・アレストリュプ
ドイツ/フランス/アイルランド
配給 アルバトロス・フィルム
ヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほか