石戸谷結子の世界オペラ散歩⑬ バイロイト音楽祭 聖地で聴くワーグナー

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2018年10月20日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡り、オペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第13回目は、ワグナーの聖地バイロイトで開催されるバイロイト音楽祭の二作品を紹介していただきます。

 

バイロイト、ザルツブルグ、グラフィネク 音楽祭めぐり2018  

聖地で聴くワグナー1勝1敗のバイロイト

 

IMG_2031バイロイト祝祭劇場 小高い丘に建つ

キリギリス生活は楽しい。
7月に続いてのキリギリス生活。それでも10日間だけ日本に帰って働き蟻に戻り、それから出直しました、キリギリスの人生に。今回はまずはバイロイト、次はザルツブルグ、最後にグラフェネクと、3つの音楽祭を渡り歩きました。でもやっぱり疲れました。
バイロイトは遠い。かつては辺境伯のお城があったので、ドイツの中でも田舎。それゆえ、ワーグナーはこの地を気に入り、祝祭劇場を建てたのだ。日本から行くにはフランクフルト空港から電車だが、いまドイツの鉄道は遅れるのがフツウだとか。この日も30分遅れ、最終列車だったので、乗り継ぎのニュルンベルクの駅で、指定のホームに留まっていた電車にダッシュしてエイっと飛び乗った。しかしこれが間違い。1時間乗って着いたのが全く知らない小さな駅。あとで聞くと、同じホームに止まっていても、行先が2つあって途中で分かれたりするらしい。旅行者には難しい。すでに0時をすぎており、翌朝5時まで列車がないという。仕方なくタクシーでバイロイトまで。ホテルに着いたら、もう午前2時に近づいていた。やれやれ。

 

 

IMG_2024トリスタンとイゾルデより

さすがに能天気なキリギリスも不安なスタートを切ったのだが、ワーグナーの聖地で聴くワーグナーは格別だと思いたい。しかし結果は1勝1敗。大好きな「トリスタンとイゾルデ」は、カタリーナ・ワーグナーの演出が気にいらなかった。演出は映像を見て知っていたものの、実際の舞台は映像よりもさらに暗く分かりにくい。鉄パイプにしか見えない装置はピラネージの絵にインスパイアされたというが、神秘性も迷宮的雰囲気もなく、ただ無機質。二人はクスリを飲まなくても愛し合っており、愛の妙薬は飲まずに捨ててしまう。2幕も3幕も意味不明。マルケ王は暴力的で、二人を監視しながら暴行を加えるDV夫。これはおそらく、愛とか夢とあこがれとかを否定し、ワーグナーの作品とテーマを根底から揺るがすことが目的かもしれない。その演出が気になって、音楽に集中できず、ティーレマンの指揮にも残念ながら入り込めなかった。

 

 

 

IMG_2025青い衣装がイゾルデ 左後方がブランゲーネ

トリスタン役のステファン・グールドは相変わらず力強く声量がある立は派なトリスタンだが、イゾルデ役のペトラ・ラングがどうしてもイゾルデに見えない。高音がきついし、声の響きが痩せていて、声そのものの魅力がないのだ。と、文句ばかりだが。でも、ブランゲーネ役のクリスタ・マイヤーが柔らかい声で、このメゾは巧いと思った。ちなみに「トリスタンとイゾルデ」の最高の舞台はスカラ座、バレンボイム指揮、パトリス・シェローの演出だった。イゾルデはワルトラウト・マイヤー。これに比べるつもりはないが、舞台に少しは哲学が欲しい。
 

 

 

 

 

IMG_2040中東の美しい美女(花の乙女たち)にかこまれてご機嫌のパルジファル(アンドレアス・シャーガー)

「パルジファル」はアンドレアス・シャーガーが元気いっぱいで、こちらは音楽を堪能できた。すでにフォークト主演の映像を見ていたので、驚きはないが、難民など現在の中東情勢を取り入れた、納得できる舞台で色彩も美しい。演出はウヴェ・エリック・ラウフェンベルク。バイロイトも新しい歌手の時代に入っており、だいたいおじいさんだったグルネマンツは、旬のバリトン、ゲオルグ・ツェッペンフェルトが歌った。アンフォルタスもトーマス・ヨハネス・マイヤーと中堅が活躍している。また、指揮はバイロイト・デビューのセミヨン・ビシュコフで、起伏に乏しく、ちょっとテンポが遅いものの、意外に癒し系の穏やかな指揮で、「パルジファル」には合っていたと思う。クンドリー役のエレーナ・パンクラトヴァも厚みのあるいい声だ。

 

 

 

石戸谷結子(音楽評論家)
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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