石戸谷結子の世界オペラ散歩15カウフマン「西武の娘」アラーニャ「サムソンとデリラ」に酔いしれたメト

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2018年11月06日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第15回は、キャンセルし続けたニューヨーク・メトロポリタン・オペラにようやく登場のカウフマン出演「西武の娘」、アラーニャ、ガランチャ出演の美しい舞台「サムソンとデリラ」の観劇レポートをお送りします。この2作品はMETライブビューイングにて東劇ほかで観ることができます。

 

 

★アリからキリギリス生活へ、NYはきょうも寒かった

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キリギリス生活もそろそろ限界。寒さが厳しくなったので、冬眠しなければ(キリギリスは冬は死んでしまう?)。ハロウィン直前に行ったニューヨークは寒かった。北風が吹き、ニューヨーカーはダウン・コートに耳当て、厚い手袋という姿だ。それでも、街角にはハロウィン・グッズが山積みで、大きなカボチャがあちこちにディスプレイされている。日中は陽も射してポカポカ陽気の日もあるのだが。

そんなニューヨークで観たのは、メトロポリタン歌劇場(メト)。ご贔屓のヨナス・カウフマンが4年ぶりにメトに復帰するというのだ。なにしろ3回も続けてキャンセルしてメトのファンを怒らせてから、すったもんだがあったけれど、やっと「西部の娘」に出演することになったのだ。今カレのカウフマンに加え、元カレのロベルト・アラーニャも、新演出の「サムソンとデリラ」に出演するというので、キリギリスは何をおいてもNYへ!
 ニューヨークに到着寸前、飛行機の中で上の棚から荷物を取ろうとしてイスに乗って、そのまま荷物もろとも転倒。頭を打って血を流し、飛行場から緊急病院に直行というハプニングもあったのだが、病院のセンセイが「はい、100パーセント大丈夫!」というので、何の手当てもないまま、ホテルへ。またも不安な出だしになったのだが・・。

 

 

 

 

★カウフマンぶし全開の「西部の娘」

西部の娘(C)Ken Howard/Metropolitan Opera (5)
 到着の翌日が「西部の娘」でカウフマン登場の初日。このプロダクションは30年近く前にプレミエ初演されたジャンカルロ・デル・モナコの演出。プラシド・ドミンゴの主演で話題になった舞台だ。まだ同じ演出を使っているのだが、さすがにこれが最後になるという。果たしてカウフマンが出るのか、ドキドキだったが、1幕の途中から颯爽と馬に乗って、かっこいいカウボーイ姿で、「そのハイボールを注文したのは俺だ!」と叫びながら無事に登場した。やれやれ。彼が登場してから、急激に盛り上がる。

 

 

 

 

 

西部の娘(C)Ken Howard/Metropolitan Opera (3)

ちょっとだけおじさん体型になり、白髪も目立つけれど、でもでも相変わらず精悍なカウフマン。家族を養うため、亡くなった父の後を継いで盗賊になったディック・ジョンソンを、彼が演じると知的で甘く繊細な色男になる。3800席のメトではその深い表現力が、どこまで聴衆に伝わるのか、一抹の不安はあったのだが、杞憂に終わった。輝かしい高音を駆使して、ドラマチックに歌うので、客席はしだいにヒートアップ。

 

 

 

 

 

 

西部の娘(C)Ken Howard/Metropolitan Opera (2)

2幕はミニーの家での緊迫した場面。この愛の二重唱ではカウフマンの声が全開し、客席は固唾を飲んでその声に酔う。ミニーを歌う、エヴァ=マリア・ヴェストブルックは、少し痩せて美しくなったのだが、高音がちょっときつくなってしまったように感じた。
 ドミンゴ主演で何回も映像で見ていた舞台だが、幕が開いて本当に驚いた。さすがはメト、舞台装置がハンパなく巨大だ。奥行きがあり、プロセニアムも巨大なので、まるで西部劇の舞台がそのまま引っ越してきたように迫力がある。デル・モナコ(伝説のテノール、マリオ・デル・モナコの息子)の演出は乱闘シーンでは二階から人が降ってきたり、本物の馬も3頭登場するなど迫力充分。このオペラの装置としてはこれまで見たなかで最高の舞台だ。愛の二重唱ではカウフマンの独壇場。甘い響きでミニーを口説き、聴衆も完全に魅了された。

 

 

 

 

 

西部の娘(C)Ken Howard/Metropolitan Opera (4)

そして3幕。西部の荒くれ男たちに捕まり、殺される直前に歌う「俺が自由になって遠くへ行き・・・」のアリアは、カウフマンぶし全開で、高音を響かせスタイリッシュに歌いあげた。このあと、首つりにされる直前にミニーが助けに駆けつけ、二人は手に手を取って、ハッピーエンドでその場を去っていくのだ(ええっ!)。
 余談だが、2日目にもう一度「西部の娘」を観たのだが、なんと開幕前に「カウフマンは風邪をひいています」というお知らせが。たしかに初日にくらべ、声を抑えて高音も不安定な箇所もあったが、がんばって歌い終えた。METライブビューイングの収録日の27日は、調子よく無事歌ったというので、ホッとした。

 

 

 

 

 

 

★アラーニャのフランス語が魅力的「サムソンとデリラ」

サムソンとデリラ22_(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
 今年5月に、ウィーン国立歌劇場で同じ二人の主演で上演され、大評判になった「サムソンとデリラ」。メトの舞台はブロードウェイの人気演出家、ダルコ・トレズニヤックの新演出だ。ウィーンは暗く陰惨な舞台だったが、こちらはまさにミュージカルのように華やかでカラフルでゴージャスな舞台だ。

 

 

 

 

 

サムソンとデリラ24_(c)Jonathan Tichler/Metropolitan Opera

アラーニャは1幕の出だしから声が良く伸び、高音もぴたりと決める。初日から数回は、調子が良くない日もあったというが、この日はMETライブビューイングの収録当日なので、力が入り、素晴らしい出来だ。アラーニャ独特の甘いフランス語の響きは他の誰にも真似できない。デリラ役のガランチャは、エキゾチックな美しい衣装で、絶世の美女にぴったり。まろやかな声と深い表現力で、彼女もまた絶好調だった。怪力の持ち主で、イスラエル人のリーダーでもある英雄サムソンだが、唯一の弱点は美女に弱いこと。手練手管で誘惑するデリラの魔力に屈し、サムソンは自分の怪力の秘密を漏らしてしまう。

 

 

 

 

 

 

サムソンとデリラ19_(c)Ken Howard/Metropolitan Opera

1幕でデリラが踊り子たちを従えて妖艶に歌う「春が来れば」と、2幕の誘惑のアリア「あなたの御声に我が心開く」は、まさに聴きもの。サムソンならずとも、メトの聴衆全てがガランチャの美貌と美声に魅了された。演出は中東風のエキゾチックでカラフルな舞台。ピンクを基調にした派手な装置と照明が、アラビアンナイトのように美しい夢のような舞台だ。 ダンス場面「バッカナール」と神殿崩壊の場面は、大スペクタクル! 二人の主役以外の歌手も揃っていて、舞台にも歌唱にも満足した公演だった。

 

 

 

 

 

 

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MET ライブビューイング
https://www.shochiku.co.jp/met/

「サムソンとデリラ」(2018年11月16日~11月22日)「西武の娘」(2018年12月7日〜13日)

 

石戸谷結子(音楽評論家)
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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