フランス人に愛されるパリの日本人シェフ①「パッサージュ53」 佐藤伸一シェフ

カテゴリー/ PARIS |投稿者/ Gouret&Traveller
2019年01月03日

Passage 53 (パッサージュ  サンカントトロワ)

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パリのパッサージュの中で最古のPassage des panoramas(パッサージュ・デ・パノラマ)。1800年に作られたこのアーケードは、歴的建造物に指定され、古切手古銭やアンティークの葉書を扱うお店が軒を連ねる。
タイムスリップしたかのようなノスタルジックな空気のなか、名前も看板もない 「PASSAGE 53」の扉をあける。53番地に位置することから、番地をそのまま店の名前がつけられた。 席数は20席。真っ白な空間は少し明かりをおとし、壁のアートが端正に浮き上がる。
急な螺旋階段を上ると佐藤伸一シェフが腕をふるう厨房がある。「アストランス」「ムガリッツ」などの星つきレストランでの修行を経て、2009年4月「Passsage 53」オープン。半年で1つ星、一年半後には日本人初の2つ星を獲得という快進撃を続けた。

 

 

 

 

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1977年北海道生まれ。料理好きな母のもとで育った佐藤シェフ。フランス料理を選んだ理由は、コック帽のかっこよさだった。フォアグラやキャビアなどフランス料理の未知の味に対する憧れもあった。
日本での修業を経て、22歳でフランスへ。フランス料理を作る以上、現場を見ないわけにはいかないと考えた。食事に行った「アストランス」の料理に衝撃を受け、シェフのパスカル・バルボ氏に弟子入りを直々にお願いし、すぐに受け入れられた。

「パッサージュ53」は、2019年3月で10年目を迎える。この10年間で料理感は数回変わっている。現在、またちょうど変化しつつあるところだ。この1年半ぐらいは、単純に「おいしいもの」「自分が食べたいもの」を作っていた。パリでは、日本人シェフが増えてリーズナブルで高品質な料理が作れるようになってきた。どのシェフも同じような良い素材を求めるので、似たような食材を使うことになる。それが今風のトレンド料理。どこに行ってもはずれがないが、個性がない。
ガストロノミーは、個性が最大の武器。「個性」は以前から意識しているが、おいしさで人を驚かせたい。星がついてプレッシャーが大きくなった。しかし、夢は叶った。期待=プレッシャーの重圧で押しつぶされそうになったこともある。何かすごいことをしなければ、というような無理をしている時代を経て、エンターテイメント性の有無が大切だと感じる時期へ。ヨーロッパでは新しいことを挑戦することを評価する。評価されているシェフは、魅力があるからだ。日本人はエンターテイメント性より味を求める。

 

 

 

 

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今は、料理人が表現する「個性」が評価される時代。「個性」を手に入れるために、外へ出て世界を見なければならない。
たとえば、フランスの伝統的な料理を食べに来るゲストはこの店にはいない。むしろ、他のレストランでは味わうことのできない、このレストランだからこその味、「佐藤伸一」の料理を食べにくる。料理は自分を映す作品だ。外に出ていろいろ見て経験して、人の心をつかむ「個性」が創り出される。

スペインのバスク地方によく行くという。魚のシンプルな炭火焼に惹かれてのことだ。「シンプル」は、使い古された言葉だが、この意味をもっと突き詰めたい、と語る。エンターテイメント性や組み合わせの妙ではなく、単純に「おいしいこと」。つまり、精度が高いという意味でのシンプルなところで素材の吟味もしたい。
この店で出す白トリュフは、料理プラス80ユーロ。仕入れには力が必要だ。毎日仕入れて、月に数千ユーロを使う。買う前にはすべて薄く切って食べてみる。香りだけではわからない、さまざまな要素を知るためだ。わざわざ追加料金を払って食べ手にがっかりしてもらいたくない。

頻繁に自身が客となっていろいろなレストランに行って勉強もする。個性のある自分だけの料理になっているのは鮨。しゃりとネタで作られる究極の「シンプル」な料理だが、同じネタでも店により劇的に味が違っている。世界的傾向になっているテクニックに頼った料理や食材の組み合わせの斬新さに頼った料理より、鮨のようにシンプルで奥深い料理をフランスやヨーロッパの食材で表現していく。

勝負はフランスでしたい。フランスの食材はすばらしく、自分の目指したい味はフランスの食材でないと作ることができない。それがフランスで料理を作っているモチベーションだ。
今後はワインにも力を入れていくつもりだという。ワイン好きで自らリストを作っている。グラスリストの多様化をめざし、値段が高くても良いものを出していく。
妥協ない店で料理をやりたい、そして三つ星に挑戦したい。そんな10年目の進化が楽しみだ。

 

おまかせコースのみ
ランチ120ユーロ/ディナー180ユーロ
追加で黒トリュフ40ユーロ/白トリュフ 80ユーロ/キャビア80ユーロ

前菜 パネとホタテ
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ホタテは軽く表面に火を入れて食感を残す。貝が生きている間、生きたまま火を入れると香りも味も強くなる。季節の食材、パネはフロマージュブラン、フランスのわさび、レフォールとピーナツオイルで。

 

 

ちりめんキャベツとあんこう
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北海道生まれなので海の香りが好き。ソースはコック貝にハーブの香りをつけて、柑橘の汁とバターで。うまみが強いので貝のジュを使う。ゆずで柑橘の香りを加える。

 

 

 

白トリュフとラビオリ

IMG_2867ロスコフという産地の香りが強い玉ねぎを使う。温泉たまごとラビオリ、玉ねぎに白トリュフをびっしりのせたシンプルな贅沢料理。

 

 

 

プーラルド
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メスの高級鶏を胸肉のロースト、もも肉はバロティーヌに、アーティチョークのフリット。黒トリュフと相性が良いトピナンプールに鶏肉のジュ。

 

 

 

黒トリュフのタルト

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サブレブルトンヌとクレームパティシエールのカスタードクリーム、トリュフ、トリュフたっぷりのアイス、フレッシュなトリフ。トリュフがたっぷり食べられる。

 

 

 

白トリュフのモンブラン
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ビスキュイにフレッシュバナナ、マロンコンフィが入っている。メレンゲの台にトリュフクリームを絞って栗を絞る。その上には、白トリュフをおしげなくのせる。

 

 

★Passage 53(パッサージュ53)
53 passage des Panoramas Paris
Tél : 01 42 33 04 35
営業時間 : 12 :00~ 15 :00、 20 :00~ 22 :30
定休日 : 日、月
最寄メトロ : 8、9号線 Grands Boulevards

photo&text Miki Yamashita

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