石戸谷結子の世界オペラ散歩⑱ 激変のブダペストで「ナブッコを観る」

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2019年03月19日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第18回は、最新のブダペスト事情をレポート、エルケル劇場のナブッコ観劇記です。

 

25年ぶりに見た、激動するブダペスト

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ウィーン滞在のあと、ブダペストに行って来た。最初にブダペストを訪れたのは1993年だから、25年ぶりの再訪となる。目的の一つはオペラ鑑賞だが、華やかになったという街並みを見たいと思ったからだ。ウィーン中央駅からは電車で2時間半の近さ。かつてはオーストリー&ハンガリー2重帝国の首都でもあり、ドナウ川で繋がっている、ウィーンとは姉妹のような街だ。
 到着した東駅からドナウ川ぞいのホテルまで、10分ほどの距離だが、タクシー運転手は30ユーロを要求した。これはウィーンの空港から市内まで30分以上かかるタクシー料金に近い。着いたばかりでよく分からず、支払ってしまったのだが。ハンガリーはEU圏だが、独自のフォリントという通貨を使っている。物価はウィーンの3分の2ほどの安さだから、タクシー代は5倍ほど取られたようだ。滞在中に何度かタクシーに乗ったが、正規の料金は一度もなく、いずれも法外な値段。いまはスマホのアプリで呼び出すのが賢いタクシー利用法なのだという。
 街は25年前に比べると観光客でごった返しており、ウィーンよりも賑やか。名物くさり橋で仕切られた王宮のあるブダ側はほとんど昔と変わらないのだが、商業地域が多いペスト側はレストランやカフェも多くなり、発展したと感じた。

しかし驚いたのは、レストランや商店街で中国人らしい人たちを多く見かけたこと。しかも観光客ではなさそうなのだ。中国の一帯一路政策により、富裕層が大挙してブダペストに移住したというニュースを読んだばかり。街には中国銀行の看板が目立つ。移住には何千万円かの資産が必要だというが、すでに1万人以上がブダペストに住んでいるらしい。ハンガリーは難民の受け入れを厳しく制限しているが、富裕層の移民は歓迎しているのだ。

 

 

 

 

 

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もう一つ驚いたのは、出国するとき買ったばかりのブダペストのガイドブックが役に立たなかったこと。音楽関係に限っても、ガイドブックの情報は古すぎる。まず豪華な建築で知られるハンガリー国立歌劇場は現在修復中(写真上)で、2020年まで閉鎖中。ウィーン国立歌劇場を一回り小さくしたような美しい劇場だ。いまは内部の一部だけ見学できる。ピアノ好きならぜったいに外せないリスト音楽院は1日1回、コンサート付きの見学ツアーがある(午後1時半)。また電車を乗り換え、やっとたどり着いたコダーイ・ゾルターン記念博物館は閉まっていて、事前に予約が必要だった。人気のカフェでも、「ぜひ訪れたい」と書いてあったニューヨーク・カーヴェーハーズは長蛇の列で何時間か待ちという混雑。豪華な天井画で知られるブック・カフェも名前が変わっていた。

もうかなり昔のことだが、ダミアが歌って大ヒットしたシャンソン「暗い日曜日」は、ブダペストの作曲家シェレシュ・レジェーが作曲した。彼が通っていたというレストラン、クラチは年中無休と本に書いてあったが、店は営業していなかった(つぶれた?)。ちなみにこの「暗い日曜日」は自殺を呼ぶ曲として知られ、多くの人がこの曲を聴きながら自殺した。作曲家のシェレシュもまたアパートから飛び降りて自殺している。ブダペストはリスト、コダーイ、バルトークと、クラシック音楽に縁のある素敵な街だが、激動の最中にある。情報は本に頼らずスマホで確認してから行くべきだった。

 

 

 

 

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ブダペスト行きの目的の一つ、オペラは日本からチケットを予約していった。平土間のいい席で3500円ほどと、かなりリーズナブルだ。ただし、オペラハウスが修復中なので、公演は古いエルケル劇場で行われる。演目はヴェルディの「ナブッコ」(写真上)で、ユダヤ人とイスラエル人の人種対立や宗教対立を描いた曲だが、演出はまるでミュージカルのように華やかだ。衣装も派手でカラフルなので、最初は驚いたが明るい演出で楽しめた。歌手は全く知らない人だが、主役の一人、アビガイッレを歌ったソプラノが、美人で声量も豊かだった。終演後、観客はいっせいに手を合わせて「ダッダッ」と大拍手で歌手たちを讃えた。この独特の拍手は25年前にオペラを観た時も同じだった。

 

 

 

 

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IMG_3846かつて、オーストリー&ハンガリー二重帝国のときは、ハンガリーを愛したハプスブルク帝国の王妃、シシー (エリザベート)もお忍びで劇場に現れ、密かにオペラを楽しんだという。いまもこの劇場には、「シシー・ボックス」が残されている。舞台横にあり、聴衆から顔を観られずにオペラを楽しめる場所だった。オペラは市民の重要な楽しみの一つ。リーズナブルな料金で、豪華な舞台を楽しむことが出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

石戸谷結子
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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