着物の “リメイク” で、日本文化の魅力を世界に発信するギャラリー「ichijiku」

カテゴリー/ CULTURE |投稿者/ Gouret&Traveller
2025年08月29日

日本愛あふれるオーナー、アーロン・ベンジャミン・モリンさんがたどり着いた「ヴィンテージきものスーツブランド」ビジネス、「Ichijiku」。

着物・反物をスーツやジャケット、ネクタイなどにリメイクして販売するビジネスをスタート、日本の文化を発信したいと「ichijiku(イチジク)」を起ち上げ、コレクションした着物をアート作品として海外に紹介しています。

 

 

2023年、伝統的な着物や反物の魅力を現代のファッションとして再解釈し、世界に広める目的で東京・代々木上原にギャラリーをオープンしたアーロンさん。「アートとしての反物を額縁に額装している」というギャラリーにアーロンさんを訪ね、着物を新しいカタチで世界に発信するビジネスを始めたいきさつや道のりを聞きました。

 

着物の魅力を、現代ファッションとして再解釈

 

 

関西に長く在住し、ときおり関西弁がまじる流暢な日本語で迎えてくれたアーロンさん。お茶と和菓子のおもてなしとともに、ギャラリーを案内してくれました。

入ってすぐの棚には、ネクタイやチーフなど小物が展示されており、奥の部屋には、コレクションの反物やアーロンさんプロデュースのジャケットやブルゾンなどの「作品」がずらりと並べられています。

ネクタイは一本3万円ほど、ジャケットは50万〜100万円、フル手縫いのセットアップは約150万円。欧米人やアジアの富裕層が主な顧客です。

残った布で作られたチーフやスリッパなどは、3万円前後と手に取りやすい価格ということもあり、日本人にもよく売れているそうです。

アートギャラリーは、原則として、一日2枠のみの完全予約制。枠は約3時間です。キャンセルを防ぐため、予約料としてデポジット(保証金、商品の購入代に充当)15万円を支払うシステム。ゆっくりお茶を飲みながら、アーロンさんのアドバイスを受け、好みの反物とジャケットをサンプルの中から選び、自分だけにカスタマイズされた一着を仕立ててもらいます。

 

 

「フルカスタムのものも作れるのですが、倍ぐらいの値段になります。どうしてもダブルが欲しいというお客さまであれぱ、そうしたオプションにもお応えできます。また、カバンや靴のデザインもテスト的に始め好評です」

 

日本のエンタメに魅せられ、京都大学に留学

 

カナダ・トロント生まれのアーロンさんは、任天堂のゲームが大好きだったことから、子供の頃から日本に対する憧れを持っていました。駐在の日本人が多いエリアに住んでおり、言葉も通じないのによく子供たちと一緒に遊んでいたそうです。

「日本人の友達の家に遊びに行くと、お母さんがおいしいご飯を作ってくれて。忘れられない味ですね。ドラゴンボールから映画の『AKIRA』まで自分の好きなもの全部が日本発祥だったことを知ってからは、『いつか日本に行きたい』と夢見るようになりました」

高校で日本語の勉強を始め、 トロント大学に入学。専攻は東アジア研究を選びました。日本語と中国語を学ぶカリキュラムでしたが、上達が早いのはやはり日本語です。大学3年生の時には、交換留学のプログラムを利用して京都大学で学ぶ機会を得ました。

「最初は東大を目指していたのですが、日本語の先生のアドバイスを受けて進路変更をして京都へ。結果、最高の1年でした。修学院に住んで京都の文化・風習に触れ、お寺巡りをして日々を過ごしているうちに、ますます日本に傾倒していきました」

 京都大学では経済や政治など幅広く学んでいましたが、ほとんどが英語の授業だったなか、メディアの授業だけ日本語で受けることができました。すでに2年ほど日本語を勉強していたので、ベースは一応できていたものの、関西弁に慣れるのには時間かかったといいます。

そんな充実した1年はあっという間に過ぎ、交換留学の期間を終えてトロント大学を卒業しました。すぐに日本にもどりたい、という気持ちでいっぱいでした。

 

京都のバーで働き、笑いがとれるほどの関西弁を習得

 

「長野の高校で英語を教えてほしい、というオファーがあったのですが、どうしても京都にもどりたくて、行きつけだった木屋町にあるバーで働くことにしました。雇ってほしい、とオーナーに直訴し、何度も断られた末、ようやくOKをもらったんです。カクテルやフードもすべて自分で作るワンオペ体制でした」

 日本語を勉強したい人にはバーで働くことを勧めたい、というアーロンさん。お酒が入っているので、恥ずかしさもなくいろいろな人と気軽に話ができるから、と笑います。

「そのおかげで、関西弁で笑いがとれるほどの日本語力がつきました(笑)」。

本来、弁護士になる夢を持っていたアーロンさんですが、日本から離れがたく仕事を探してサラリーマン生活を送ったこともあったそうです。しかし、「そんな生活には将来性がない」と不安に襲われました。

「ちょうどその頃、友達がアメリカのロースクールに通っていて、1年生のときにインターンシップで来日していたんです。アメリカの法律事務所の東京オフィスで働いており、卒業したらまた同じオフィスで働ける、という話を聞いて、『そんなことができるなら仕事を辞めてカナダにもどろう』と決断しました」

ロースクールはアメリカの大学を選び、卒業後はニューヨーク州の弁護士資格を取得。東京の外資系弁護士事務所で、企業弁護士として紛争解決などを担当することになります。商標や著作権などメディアの知的財産に関わる仕事を希望していたので、ゲーム会社に出向したこともありました。しかし、法律事務所の勤務のスタイルや職場の雰囲気が合わず、パワハラや長時間勤務がストレスで退社。

 

日本からクリエイティブなことを発信したい

 

起業でもしようと、いったん、トロントにもどります。そのときに閃いたのが、「日本で何かクリエイティブなことを発信したい」という考えでした。

父親は音楽プロデューサー、祖父はカナダで大きなテイラーを経営、アーロンさんもファッションが好き。クリエイティブな家系の血が流れていたのでしょう。日本のすばらしさを新しいカタチで海外に紹介する仕事がいいのではないか、という思いにかられました。

 

 

「いろいろ探しましたが、一番惹かれたのが着物。ある日、京都に行ったとき、『着物のコレクションを誰かに譲りたいという知人がいるけど、見に行く?』と声をかけられたんです。行ってみると、祇園の料亭に着物がずらっと並べてあって、一枚一枚詳しく説明してくれたんです。専門用語ばかりで全部を理解することはできなかったのですが、奥がものすごく深いということは伝わってきました。美しい光沢感や触ったときのスムーズな手触り。初めての感覚に感動しました。その場で着物を扱うことにしよう、と決断。海外で売るか、ばらして何かを新しく作るのか。わくわくしながら考えていました」

 

 

正絹などかなりいいものが入ってたにもかかわらず、店を閉めるので必要がなくなったからと、かなりの枚数をまとめて5000円で購入。とりあえずトロントに運び、ネクタイにしてみるのはどうだろう、と思いつきます。たまたま自分の好きなネクタイのメーカーブランドが、当時住んでたマンションから徒歩30分のところにあり、さっそく連絡してみました。「着物でネクタイ作れませんか」、と依頼し試作してもらうことになります。

 

 

「それを商品化することから始めました。蝶ネクタイも作りましたが人気があります。スーツに関しては、カナダの優秀なテイラーを回ったのですが、『これをどうして欲しいの、帰れ』と言われ続けて、『やはり無理か』と一旦夢を諦めかけました。貯金も底をつき、そろそろ仕事をしなければ、と日本で企業弁護士の仕事にもどったところ、『知人がスーツを作れるかもしれない』と友人から連絡があったんです」

「先染めは上下作れるけど、後染めはそんなに丈夫じゃない。ジャケットはできるけどズボンはやめた方がいい」などいろいろアドバイスを受けましたが、「先染めって何?」という無知ぶり。まずは、着物を勉強しなくてはじまらない、と沖縄の紅型、奄美大島の大島紬、茨城県の結城紬など、日本中を飛び回って地域の織物の技術や歴史や文化などを学んでいきました。

「その過程でわかったのですが、反物の生産も職人さんもどんどん減ってきています。貴重な文化資産として海外だけではなく日本国内にも広めていきたいと考えるようになりました」

職人技術を引き継ぐ人材を探し世界中に伝えていくことにも取り組んでいきたい、と意欲を語るアーロンさん。

「まだまだこれからですけど、日本の文化を世界一のラグジュアリーブランドにする、その夢を叶えたいですね」

 

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