『両親(ふたり)が決めたこと』夫婦でともに迎える”デュオ安楽死”をミュージカル仕立てで綴る

カテゴリー/ CULTURE |投稿者/ Gouret&Traveller
2026年02月03日

 

「安楽死」という言葉にも、いまやそう悲壮感はなくなった。スイス連邦裁判所は〝高齢夫婦のどちらかが終末期に安楽死するとき、そのパートナーは健康であっても共に安楽死することができる、と認めており、デュオ安楽死というシステムで、夫婦ふたりでともに虹の橋を渡ることができるのだ。

欧州においてデュオ安楽死は2022年の1年間で29組以上の夫婦(計58人)に実施された。2020年と比較して2年間で2倍以上増加しているという。

 

 

安楽死をテーマにした映画は多々あるが、新たな定義づけをした、という意味では、社会に一石を投じるだろう。トロント国際映画祭では、最優秀作品賞を受賞している。

 

 

舞台はバルセロナ。80歳の舞台女優、クラウディアは癌を患い、脳に転移、錯乱や半身麻痺など苦痛にさいなまれる。苦しみから逃れるため、安楽死を選択したいと夫フラビオに相談。妻がいなくなったあとの喪失感に耐えられないだろうと、その決意に寄り添い、「デュオ安楽死」に同意、2人でスイスに向かう。深刻な話し合いのはずが、夫婦の愛あるやり取りが微笑ましい。これだけ信頼し合える関係を築いていれば、2人で最後を迎えることにも説得力がある。

 

 

 

したがって、死をテーマにした物語であっても悲壮感はない。もちろん、安楽死を決める過程の葛藤は大きい。子供たちに伝えたときの重苦しさもある。無理もない。両親がともに命を立つ、と聞けば、どんなに狼狽することか。まだ元気な父親が命を絶つことは、とうてい容認できないだろう。娘は父親に安楽死を選択させた、と母親を責める。そんな両親の終幕にまつわる子たちの心の機微も重苦しくない。ユーモアあるセリフを交えて観客に共感させる。

 

 

テーマはシリアスだが、見る者の心を溶かすのは、時折、ミュージカル仕立てになる演出だ。舞台女優だった人生を走馬灯のように観客とともに駆け巡る。群舞のダンサーを上から撮影して万華鏡のようなシーン、「バークレイ・ショット」を折りに触れて挿入、華々しかった日々を慈しむ。最後の淵に立つ人間の複雑な心理を巧みに表現する名手法だ。幸せだっただろうと思わせる人生が終わろうとする。ラストまで淡々と死への儀式は過ぎゆく。しかし、そこに悲哀はない。

 

 

『両親(ふたり)が決めたこと』

監督 カルロス・マルセット

キャスト アンヘラ・モリーナ、アルフレード・カストロ、モニカ・アルミラル・バテット、パトリシア・バルガロ、アルバン・プラドほか

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