『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』 パンデミック禍のダンサーを追うドキュメント

『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』

2022年8月19日よりBunkamura ル・シネマほか全国で順次公開

世界で最も権威のあるバレエカンパニーのひとつであるパリ・オペラ座は、ルイ14世によって、約350年前に設立された。オペラ座バレエの本拠地、ガルニエ宮は、ネオ・バロック様式で、彫刻が細部にまで施された豪華絢爛たる内装を誇る。当時の最新素材である鉄を使用し、5階にわたり2000以上の座席を配する劇場を造り上げることに成功した。観光客の見学者も多数受け入れているパリの歴史的建造物である。1989年には、新たに近代的な劇場、オペラ・バスティーユも開場した。

2020年3月12日、ガルニエ宮、オペラ・バスティーユの扉がコロナ禍で3か月間閉鎖される。パリ・オペラ座バレエの復帰は、特異な道のりだった 。

所属する154人のダンサーは、年間180回以上の公演で踊ってきた。厳しい訓練を必要とし、通常1日7時間踊るダンサーにとって、リハーサル・スタジオや舞台から離れなければならないことほど辛いことはなかっただろう。長い隔離の間、どのような身体状態、精神状態だったのか、そしてそのあと、どのように舞台にもどったのか。

プルミエ・ダンスール(当時)　のポール・マルクは、「階下の住人に配慮し、ジャンプの練習も控えるなど1日の練習時間が減ってしまい、脚の筋肉は半分程減ってしまった」と嘆く。

本作は、スタジオにダンサーが再び集合した初日から、パリ・オペラ座の再開、ルドルフ・ヌレエフ版『ラ・バヤデール』のリハーサル、本番まで、そして有観客での再開となった演目『ロミオとジュリエット』までのダンサーたちの姿に密着したドキュメンタリーだ。

彼らはどのようにして難しいテクニックを維持することができたのか。バレエダンサーとしての身体へとゆっくりと再生していく様子をカメラが追った。バレエ団芸術監督のオレリー・デュポンは、クラスとリハーサル、初日と舞台裏に至るまでの撮影許可を出した。パリ・オペラ座バレエの歴史におけるこの特別な瞬間を記録することの必要性を感じていたのだろう。

マチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アマンディーヌ・アルビッソンら、最高位のエトワールたちのレッスン再開は、ソーシャルディスタンスを取りながら、マスク姿での稽古場からだ。かつて経験のない不安な状況下で、“オペラ座の宝”といわれる演目、ヌレエフ振付の超大作『ラ・バヤデール』の年末公演に向けたレッスンの日々が始まる。しかし、再びの感染拡大に、なんと開幕目前に無観客配信が決定、思いがけない事態に陥ってしまう。

エトワールのユーゴ・マルシャンは、「ダンサーのキャリアは短く、バレエ団との契約は42歳。キャリアのピークの今こそ思う存分に踊りたい」と無念な思いを吐露する。　

そんな激動の中、新エトワールの誕生をカメラは映し出す。パリ・オペラ座では、新エトワールの任命を舞台終了後、その場で行う。『ロミオとジュリエット』でジュリエットを初めて演じたパク・セウンが、終演後、オレリー・デュポン舞踊芸術監督の推挙により、アレクサンダー・ネーフ総監督からエトワールに任命される。アジア人初のエトワール誕生の瞬間をカメラがとらえた。

苦難の時を経て、芸術の殿堂パリ・オペラ座の新たなる歴史の幕が上がる。

『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』

パリ・オペラ座バレエ
アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント
ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ
マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク
アレクサンダー・ネーフ（パリ・オペラ座総裁）、オレリー・デュポン（バレエ団芸術監督）
監督：プリシラ・ピザート
An EX NIHILO, OPERA NATIONAL DE PARIS AND LA FONDATION RUDOLF NOUREEV COPRODUCTION, with the support of France Télévisions, CNC
© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021

text Miki Yamashita