坂茂のアート空間、サステナブルでソーシャルなブティックリゾート、「ししいわハウス」で過ごす贅沢
2022年09月17日
コロナ禍に入ってからも、ホテル開業ラッシュが続き、倉庫や工場、廃校を改装したり、安藤忠雄や隈研吾など建築家が設計する、アート空間をコンセプトにした新感覚の宿泊施設が続々とオープンしている。
軽井沢町にオープンした「ししいわハウス」でのステイは、アートとしての建築を存分に享受できるブティック・リゾートだ。設計を手がけたのは、プリツカー賞受賞者としても有名な建築家・坂 茂(ばん・しげる)氏。
森と山々に囲まれた静かな別荘地に向かうと、周囲の自然に溶け込んで静かに佇むナチュラルな外観があらわれる。「建築とランドスケープの一体感を味わってもらいたい」という坂茂氏の思いから完成した2棟のホテル施設だ。
浅間山が見え、常緑樹、桜やもみじなど250本もの木々に囲まれた立地。近くには、セゾン美術館や温泉もあり、20分ほど自然の中を歩けば千ヶ滝が現れる。
周囲の森の木々に沿うように、木造パネルを組み合わせて作られた曲線の壁や波状の屋根、そんな外観の眺めに坂茂建築の芸術性を感じ入りつつ、なかに入ってみると、複雑にデザインされた木組が温かみあふれ、空間いっぱいに広がる。高い天井に緑が広がるラウンジは解放感でいっぱいだ。ソファに体を沈めれば、木組のデザインから見え隠れする緑の木々が180度視界に現れる。
「これほど木材を使うプロジェクトは初めて。曲線を描きながら幾度もパースをおこしていく作業に予想より3倍時間がかかった」と坂茂事務所は回想する。
館内のハイライトは空中回廊。2階のパブリックスペースには、このホテルのメインダイニング、「ザ・レストラン」に仕立てられ、周りを緑で囲まれた広々とした「フォレスト・テラス」に続く。切妻屋根の小屋組に無柱のトラス (三角形の骨組みを単位とした構造)が組まれた、革新的なデザインだ。
この解放感広がるレストランでの食とワインは、ホテルをさらに贅沢なリトリートにする。
イタリアンの経験も持つ岡本シェフによる軽井沢の四季折々の食材、Ducaファーム、柳沢ファーム、信州サーモン、軽井沢揚げ豆腐など、地元で探した食材を駆使したイノベーティブフレンチ。
そして「ザ・ワイン&ウイスキー・バー」「シガ ールーム」ではヴィンテージワインを含む世界から選りすぐりの名酒を取り揃えている。
「滞在することで、家族や友人同士、自然との『つながり』が感じられること。人間性を回復できる真の癒しを体験できる」部屋作りをめざした。
1階には 12 室の客室が用意され、穏やかなに過ごせるプライベートスペースには、職人の手仕事による檜風呂や森林に囲まれたテラスを備えている。また、別棟は、家族やグループで利用できるように、1つのクラスターに客室が2~3室にまとめられており、1階に2部屋、2階に1部屋などランダムに部屋が配置れている。1階の共有スペース、 “リビングルーム”に集まり、この棟に宿泊した知らない者同士も会話がはずむ。靴を脱いで上がるリビングは、まさに自宅でゆったりするかのような寛ぎを満喫できる。
オーナーは、シンガポールに拠点を持つHDHキャピタル・マネージメントが設立したHDHP GK社のフェイ・ホアン氏。
「これまで眺めるだけだった建築を身近に感じてほしい」と坂茂氏に設計を依頼した。災害被害者、戦災者のために簡易住宅を建てるなど坂氏の社会貢献活動に感銘を受けたこともあるが、なにより坂氏の建築のアート性に対して尊敬の念を持っていることにコンセプトのベースはある。この建築家によるホテルプロジェクトはこれからも続く。次は、やはり世界的建築家である西沢立衛氏による「ししいわハウスNo.3」が進行中だ。
館内に飾られたホアン氏のコレクションであるロバート・フランク、 ルース・ベルナール、アーロン・シスキンド、といった巨匠たちによる 1934 年から現在までの約 30点のオリジナルプリントも、さらに坂茂建築の魅力を引き出している。
これまでのホテル業界の『豪華や贅沢の定義』はコロナ禍を経て古びた概念となった。これからは、自然素材やリサイクル可能な素材を使用し、CO2をできるだけ排出しない、サステナブルなホテルが“新しい贅沢“の定義に代わるだろう。
自然、ソーシャル、地産地消、このホテルには、現代人が大切にしたい要素が詰まっている。なにより、眺めるだけのアートだった建築を身近に感じながらのステイは、なにものにも代えがたい贅沢を享受できるのである。
ししいわハウス軽井沢
所在地 長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-646
電話番号 080-7691-6020
宿泊費 49,280円〜(税・サ込み/朝食2名様分付)
http://www.shishiiwahouse.jp/
*レストランは宿泊者以外も利用可能
・ランチ ランチサラダ 1500円/和牛ビーフバーガー 1500円/鴨そば 1800円/信州サーモングリル 3000円/白樺若牛ステーク 3000円(予約なし可)
・ディナー (要予約) ディナーメニューは12,000円 6皿+デザート、コーヒーのコースのみ
6:00-19:30、 20:00-21:30の二部制
レストラン予約 therestaurant@shishiiwahouse.com
text Miki Yamashita
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