柿澤勇人さんが語る、METライブビューイング『椿姫』の見どころ
2022年12月30日
東劇で開催されたMETライブビューイング2022-23《椿姫》のスペシャルトークイベントに、劇団四季の出身で、退団後も舞台や映画など幅広い分野で活躍中の柿澤勇人さんが登壇。ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(通称:MET(メト)の世界最高峰の最新オペラ公演を大スクリーンで楽しむMETメトライブビューイング2022-23シーズンの第2作目、人生で一度は観るべきオペラ、ヴェルディ《椿姫》について語りました。トニー賞受賞演出家マイケル・メイヤーはじめ、ブロードウェイのクリエイターによる演出と旬のスター歌手陣の豪華な舞台は、12月16日(金)~22日(木)に全国公開です。(※東劇のみ1/5(木)までの3週上映)
セットや衣装が絵画のように美しいメイヤーの演出
Q 今回のMETライブビューイングの『椿姫』は、柿澤さんが出演したミュージカル『春のめざめ』の演出家、マイケル・メイヤーの演出ですが、ご出演になった舞台を交えて、どのような印象を持っていらっしゃいますか?
柿澤 ニューヨークで、『American Idiot』というGreen Dayのアルバムをミュージカル化した作品などを観たのですが、『春のめざめ』と同様にセットが絵画のようで、色の使い方が美しいですね。センスが良くて印象的でした。
Q ニューヨークに行かれた時に、オペラもご覧になりますか?
柿澤 METで初めてオペラを観たのは学生の時です。ジュリー・テイモア演出の『魔笛』でした。言わずと知れた『ライオン・キング』の演出家ですが、日本をリスペクトしていて、布を使うなど日本にインスパイアされた手法を使うところが興味深いです。
Q ジュリー・テイモアの『魔笛』は、たいへん人気がある舞台なのですが、マイケル・メイヤーも柿澤さんが挙げられたような魅力に溢れた舞台になっていますので、ぜひご覧になってください。
METはリンカーンセンターというところにあるのですが、歌劇場だけではなく、ほかにも劇場が集まっています。リンカーンセンターの雰囲気は、実際に行かれてみていかがでしたか?
柿澤 広大な敷地の真ん中にMETがあり、そのまわりにも劇場が集まっています。METの前の噴水は、シンボル的な存在ですが、スケールが大きくて圧倒されましたね。
Q.『椿姫』はオペラの代名詞とも言われている作品で、こんなに劇的でロマンチックな恋はないほどのラブストーリーです。今回の『椿姫』の中で特に好きなシーンはありますか?
柿澤 冒頭のヴィオレッタの登場シーンが好きなんですけど、セットと衣装には、お金かけたんだろうなと驚くくらいゴージャスですよね。センスの良さを感じます。照明の変化に人間関係をリンクさせたり、最初のきらびやかさ華やかさ、そこから悲劇になっていくにしたがって変わっていく色のトーンが印象的でした。
Q ストーリーは、皆さまもご存知かと思いますが、高級娼婦ヴィオレッタと金持ちのボンボンアルフレードが恋に落ちる、それをアルフレードの父親が、“あなたのような人が息子と付き合っていると、妹の結婚に差し障るから別れてくれ“と言い寄ってくるんです。最後、ヴィオレッタの命がつきようとしている時に絶望して歌うシーンがあるのですが、実際に涙を流しながら歌うんですよ。
柿澤 オペラとは違うと思いますが、ミュージカルで涙を流しながら歌うのはとても難しいんです。声が震えるとかひっくり返ったりすることもりますし。オペラは声が命ですから、技術の高さを感じます。劇団四季の時に浅利慶太さんが言っていた言葉を思い出します。“オペラは声が命、テノールだったらハイCを出さなくてはいけない。ちょっとでも音をはずしたらしたら役をおろされてしまう“。観客も耳がこえているので、ブーイングが起きることもよくあるとを聞いていました。大学では、「オペラ」の授業をとっていたこともあり、『ラ・ボエム』と『レント』の比較をレポートで書いたりして、オペラはよく観ていました。
Q METライブビューイングでは、オペラそのものも素晴らしいカメラワークと音で見られるのですが、休憩中の歌手やスタッフの方々のインタビューをバックステージから中継するんです。今回は、ソプラノの大御所、ルネ・フレミングが登場し、終わって出てきたばかりの歌手とスタッフにインタビューしています。METに出演した『椿姫』の歌手の歴史解説などもあります。
オペラが始まってすぐに『乾杯の歌』があるのですが、これは一般的に、パーティーなどの乾杯シーンでよくBGMに使われているお馴染みの曲。実はヒロインのヴィオレッタとアルフレッドの初めて会う画面なんです。2人の関係は、最初はどんか感じなんでしょうか。芝居もみどころです。柿澤さんは、どんなアプローチで役作りをしていますか?
柿澤 脚本に書かれていることが、まず第一だと思います。台本の中に答えはすべて入ってるはずですから、それを理解するために資料を集めて、演出家の方などとディスカッションをしながら自分なりに肉付けしていきます。ミュージカルですと、歌や踊りが入ってきますので、トレーニングもしながら稽古していきます。
Q 体で表現するためには、技術がとても大事ですよね。『椿姫』には、3人の主要登場人物がいますが、いずれも技術の高い歌手が出ています。ヒロインのヴィオレッタは、演技力と歌唱力を持ったソプラノ、ネイディーン・シエラ。アルフレードは、アメリカ人のテノール、スティーブン・コステロ。そして、アルフレードのお父さん、これが大事な役なのですが、ナンバーワンのベルディ・バリトン、ルカ・サルシで、ヴェルディ作品のオペラ21役を歌っているんです。なぜこれほどヴェルディを歌っているか、その理由も幕間のインタビューで出て語っていますので、お見逃しなく。ほかにも多様な国籍の素晴らしい歌手が集まっているところがMETらしいですね。
柿澤 世界で活躍している日本人オペラ歌手も多いのですが、割合としては少ない。なぜかというと、浅利慶太さんいわく、まず、日本人の体のつくられ方が不利なんです。スポーツでもそうですけど、外国の方と比べると小さいくて細い。声は楽器ですから、体を鳴らさなければいけないんですね。もう一つが、言語。日本語を話す時はあまり体を使うことがないんです。なぜかというと、母音が5つしかないからです。たとえば、韓国語などは母音がもっとたくさんあることで、体を使わないとできない発音があるそうなんです。小さい頃から体を使うことに慣れるているから、歌がうまい方が多いのでしょうね。
楽器としての人間の声を堪能できるのは、やはり、メトロポリタンオペラです。今シーズンのMETライブビューイングは、初演、初演出も多数。見どころも満載です。まずは、『椿姫』を見て、オペラフリークへの道を歩んでいただければうれしいですね。
MET ライブビューイング2022-23
ヴェルディ「椿姫」