フランス写真界の巨匠 レイモン・ドゥパルドン 日本初個展&ドキュメンタリー映画「旅する写真家」公開
2017年08月31日
DEPARDON / TOKYO 1964-2016
「レイモン ドゥパルドン写真展」9月1日より銀座シャネルネクサスホールにて開催
『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』 9月9日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開
60年代に報道写真家として活動を始め、アルジェリアやベトナム、ビアフラ等の戦地を取材し、1977年にチャドを取材、撮影した作品によりピューリッツァー賞を受賞、1973年には写真集『Chili』でロバート・キャパ賞受賞するなど、フランスを代表する写真家、レイモン ドゥパルドンの日本国内における実質的な初個展が開催される。ドゥパルドンは、1979年、世界最高の写真家集団といわれるマグナム・フォトの正会員となり、1996年には30年間に及ぶアフリカ取材をまとめた写真集『En Afrique』を出版、2010年に個展「La France de Raymond Depardon(レイモン ドゥパルドンのフランス)」展をフランス国立図書館(BnF)で、また、カラー写真に焦点を当てた「Un moment si douce(甘い瞬間)」展を2013年にパリのグラン パレで開催、これまでに71冊もの写真集を出版している。
© Raymond Depardon / Dalmas-Sipa Press J.O. Tokyo 1964
1964年、22歳の時、東京オリンピックを取材するため初来日したドゥパルドンは、独自の観察眼や構成力がいかんなく発揮された2,000点以上のモノクロ作品を残している。その際、東京の町を撮影してみたいと思ったが、当時はまだ駆け出しで報道カメラマンとして役割を果たすことで精一杯だったという。以来、何度も東京を訪れ、スナップを取り続けてきた。
© Raymond Depardon / Dalmas-Sipa Press J.O. Tokyo 1964
2016年には、2020オリンピック・パラリンピック競技大会を控えた東京をカラーで撮影、地下鉄や電車に乗って東京の隅々までまわり、ほかの写真家が撮影してこなかった小さな町のありふれた日常、ファーストフード店でスマホに夢中になる若者、商店街のディスプレイ、住宅街を行き交う人々などをカメラに収めた。
この展示では、オリンピックの東京と過去作品、そして2016年のカラー作品を3本柱として展示する。これらの作品群は、単なるノスタルジーではない、歴史の記録としての過去とリアルな現在の東京の対比を示してくれる。「まだまだ進化の途中」という75歳の巨匠ドゥパルドンは、今回の来日でもライカを常に携帯し東京の姿を追いかけている。
© Raymond Depardon / Magnum Photo Tokyo 2016
報道とはまた異なる分野でも活躍。映画のスチルカメラマンとして、トリュフォーやゴダール、ロメールの撮影現場に赴き、アラン・ドロンらスターたちも取材してきた。近年は、鄙びた洋品店や伝統的な町工場、海岸沿いの安ホテル、伝統的な農業を続ける家族といった「ガイドブックには載らない」風景を40年以上に渡って撮影した作品を発表。愛車に大型カメラの機材を詰め込み、いまもフランス中を走りまわって古き良き姿を取り続けている。
1974年からは映画制作を始め、ドキュメンタリー映画の監督としても世界的に高い評価を得ている。これまでに計21本の映画を製作しており、最新作『12 Jours(12日間)』(2017)は、カンヌ国際映画祭で上演された。これまでに山形国際ドキュメンタリー映画祭で市長賞を受賞した『アフリカ、痛みはいかがですか?』(1996)や、フランスの権威ある映画賞ルイ デリュック賞を受賞した『モダン・ライフ』(2008)が日本国内で上映されている。
9月9日からは妻のクローディーヌ ヌーガレが共同監督として参加した 『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』(2012)が上映される。8×10の大型カメラで昔ながらの趣をもつ懐かしいフランスを撮影しようと、車や人々が画面からいなくなるまで辛抱強く待つドゥパルドンの姿から映画はスタートする。注文写真ばかり撮っていたドゥパルドンが自分が撮りたいものだけを撮る、現在の彼だ。
スチルの報道カメラマンとしてだけでなく、自ら起こした「ガンマ」というジャーナリスト集団で、戦地から政治の現場まで貴重な瞬間のニュース映像を撮り続けてきたドゥパルドンが、自らの資料室に眠っていた過去の報道撮影のフィルムをデジタル化し、ドキュメンタリーとして製作したのが今回の作品である。フランス国内で、大統領選挙や裁判所・精神病院・警察といった国家機関の内部に迫るルポを市民の目線から描く映像作品を制作してきたが、本作品のなかでは、精神病院の入院患者の告白や警察の取り調べの内部、裁判の法廷現場など、ドゥパルドンが興味をもって取り組んでいたという「閉塞された空間」における人々の心理模様を緊迫感をもった映像で綴る。
映像には、フランスのシラク大統領や南アフリカのネルソン・マンデラらの政治家、一方では、スチルカメラマンとして映画の撮影に立ち合ってきた、出演スター、監督たち、アラン・ドロンやジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメールらが撮影の合間に見せるリラックスした姿をとらえた珍しい瞬間も登場する。
20世紀の世界中の歴史の転換期には必ずといっていいほどドゥパルドンが存在した。アフリカ、中東、南米、アジアで起きた凄惨な戦地や内戦、革命などを収めたフィルムがコラージュされ、今世紀までの貴重な変革の瞬間をを振り返る機会を与えてくれる。世界中を巡り、冷静な目で決してエゴイスティックに相手に踏み込むことなく慎しみ深い報道の映像を残してきたドゥパルドン。時折挟み込まれる彼のプライベートな姿は、彼の人生そのものが旅であることを物語る。観る者もその人生の旅を疑似体験し、自らの旅立ちへと誘われていくことだろう。
文*山下美樹子
DEPARDON / TOKYO 1964-2016
「レイモン ドゥパルドン写真展」
2017年9月1日(金)~10月1日(日) 12:00~20:00 (入場無料・無休)
■会場 シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』
9月9日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開
2012年/フランス/100分/カラー/シネスコ/5.1ch 日本語字幕:高部義之
配給 アンプラグド
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
監督:レイモン・ドゥパルドン
製作:クローディ-ヌ・ヌーガレ
撮影:レイモン・ドゥパルドン
音楽提供:パティ・スミス、アレクサンドル・デスプラ、ジルベール・ベコー、グロリア・ラッソ、アラン・バシュン他
出演:レイモン・ドゥパルドン、クローディ-ヌ・ヌーガレ、アラン・ドロン、ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメール、ジャン・ルーシュ、ミレーユ・ダルク、マリー・リヴィエール、ミレイユ・マチュー、ジャック・シラク、ネルソン・マンデラ他
「石戸谷結子の世界オペラ散歩④ミュンヘンの街とルートヴィッヒ二世」