石戸谷結子の世界オペラ散歩22「神話」がテーマのザルツブルク音楽祭、人気は「イドメネオ」

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2019年10月01日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第22回は、2019年ザルツブルク音楽祭、一番人気のクルレンツィス指揮「イドメデオ」をご紹介します。

 

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気が付けばもう秋の気配。夏の音楽祭の余韻はまだ鮮烈に残ってはいるのだが・・
そろそろ来年夏の音楽祭の予定が発表され始めた。2020年のバイロイト音楽祭では、しばらくぶりに「ニーベルングの指環」新演出が上演される。指揮は初登場の若手指揮者、ピエタリ・インキネン。フィンランド出身で日本フィルの首席指揮者として、日本人にはお馴染みだ。演出はヴァレンティン・シュヴァルツ。オーストリア生まれの29歳。かなり過激な演出家なので、いったいどんな舞台になるのだろう!

 

 

 

 

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今年のザルツブルグ音楽祭は8月31日に幕を閉じた。約40日の期間中に、7つのメイン会場のほか、教会や王宮などで199の公演が行われ、のべ270584人の聴衆が音楽や演劇を楽しんだという。世界的な異常気象のおかげで、ザルツブルグも7月は猛暑だったが、8月中旬以降は例年と変わらず過ごしやすい気候に戻った。山に囲まれているため空気が澄んで、爽やかな風が街を通り抜ける。ザルツブルグは小さな街だが、昔の司教区だった名残で、大きな教会がひしめき合っている。朝にはそれら教会の鐘が風に乗っていっせいに響き渡る。今年も一段と観光客が増えて、メイン通りのゲトライデガッセは真っすぐ歩けないほどの混雑ぶりだ。

〇気鋭の若手もベテランも、演出家が大活躍

今年の音楽祭のテーマは「神話」。9演目上演されたオペラのうち、「イドメネオ」「メデ」「アルチーナ」「エディプス王」「天国と地獄」「サロメ」と6つが神話をテーマにしている。また9演目のうち、2つは演奏会形式で1つが昨年の再演。6つの新演出のうち、4演目を見ることができた。

 

 

 

 

 

IMG_5917©Anton Zavyalov  

一番人気はモーツァルト「イドメネオ」。人気指揮者のテオドール・クルレンツィス指揮、ピーター・セラーズ演出ということでモーツァルトの「イドメネオ」が一番人気、最もチケット確保が難しい演目となった。2017年にこの二人のコンビで上演された「皇帝ティートの慈悲」が評判を呼んだためだが、「イドメネオ」は2年前の演出を踏襲して「虐げられた民族の悲劇」をテーマに掲げ、シリーズのよう。プラスチック・ゴミが散乱する海や、難民問題、マイノリティーの苦悩など現代がかかえる数々の問題がクローズアップされ、歌手はアジア人や黒人が目立つ。これはセラーズの趣味かもしれない。

 

 

 

 

W.A.Mozart Idomeneo Salzburger Festspiele 2019 Regie Peter Sellars/ Musikal. leitung Teodor Currentzis/ Bühne George Tsypin/ Kostüme Robby Duiveman/ Idomeneo Thomas Russell/ Idamante Paula Murrihy/Ilia Ying Fang/ Elettra Nicole Chevalier/ Nettuno La Voce Jonathan Lemalu /Tänzer Brittne Mahealani Fuimaono, Ioane Papalli musicaAeterna Choir

IMG_5941©SF/Ruth Walz

 クルレンツィスの指揮は生気に富み、ニュアンスが豊かで、緊迫感にあふれている。オーケストラはムジカエテルナでなく、フライブルグ・バロック・オーケストラで、古楽器アンサンブルだ。フォルテピアノを使い、演奏にちょっとしたアクセントを加えて、響きがとても新鮮だ。セラーズの演出は、「皇帝ティート」のときは新鮮だったが、二番煎じは免れない。歌手も前回のセスト役、マリアンヌ・クレバッサのようなスター歌手がいないので、歌手が弱い。とはいえ、イリア役のイン・ファン(「蝶々夫人」を歌ったYing Huangとは別人。こちらはYing Fang)が優しいまろやかな美しい声で好演した。セラーズは曲の中に、モーツァルトの劇音楽「エジプト王タモス」のアリアを挿入、またイダマンテ役のパウラ・ムリイーに、もとは「イドメネオ」のために作曲されたk・490のアリアと同じ歌詞を持つコンサート・アリアk・505「どうしてあなたを忘れられよう」を歌わせた。最後は延々続くダンス音楽入りバージョンを採用し、なんと唐突にタイ舞踊が踊られた。これもきっと、セラーズの趣味に違いない。

 

 

石戸谷結子
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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