「私の知らないわたしの素顔」ヒッチコック的サイコサスペンス
2020年01月13日
「私の知らないわたしの素顔 」1月17日よりBunkamura ル・シネマにて公開
クレールを演じるジュリエット・ビノシュが現実とフィクションの狭間を行き交う心理サスペンス。さらにラブストーリーも絡めてヒッチコック的な世界観を楽しむことができる作品だ。
パリの高層マンションに暮らす50代の美しき大学教授クレール。冒頭、精神科医のカウセリングルームにいた。自らのことを話すよう新しい精神科医のポーマン(ニコール・ガルシア)にうながされる。そんなことを語るのは苦痛だった。50代という年齢、さまざまな傷も経験している。
離婚し、年下の恋人との関係を築こうとしていたクレールだが、彼からは邪険にされてばかり。ついには捨てられてしまう。こんなとき、心のすきまを埋めるため、人はさまざまなな方法をとるだろう。お酒の力を借りたり友人に頼ったり。クレールが選んだ行動はいまどきならではのSNSの「なりすまし」だった。ほんの出来心でFacebook上クレールは「24歳の美しいクララ」として存在することとなる。SNSを通じて彼と再び出会うことを目論んでいたが、別れた恋人の友人、アレックス(フランソワ・シヴィル)という息子ほどの年の差の青年とつながる。
アレックスは、SNSの世界にのみ存在するクララと恋におちる。メールや通話のみで愛を語り、お互いの気持ちを確かめ合う2人。バーチャルな世界だけでは物足りなくなり、クララに恋焦がれたアレックスは会いたいと迫る。クララが来るまでモンパルナスで待つ、というアレックス。クレールはモンパルナスで自分を待つアレックスを見ている。アレックスとすれ違うクレール。
定石どおりならクレールはアレックスに言い寄られ、年の離れた恋人を見つけるのだろう。中年女クレールのロマンチックな恋物語、そんなフランス映画の定番を一瞬予感する。
ところが、事態は思わぬ方向に展開する。当然、アレックスは気づかない。彼にとってクレールは透明人間に過ぎないのだ。やがて、クレールには、自分の本当の姿を明かしたいという気持ちが芽生える。「クララ」とアレックスの恋はどんなところに着地していくのだろうか。
物語は先の展開が見えないまま加速度をあげ、クレールの思うまま突き進んでいく。予想を裏切り続けながら。そして、訪れる不可解なラストシーン。クレールの意味深な行動は何を物語るのか?
監督、サフィ・ネブーは、この作品の脚本を書いている最中に、自身もSNSで女性に騙されたという。驚きの告白だ。この経験からバーチャルな世界のリアルをみつけだすことができたのだろう。いくつか実際に起こったエピソードを使っているそうだ。
見回せば携帯をのぞく老若男女。誰もが仮想世界に没頭する現代。なりすましのクレールが味わうワクワク感は誰もが経験してみたい危険な罠かもしれない。
「私の知らないわたしの素顔 」
監督・脚本:サフィ・ネブー
出演:ジュリエット・ビノシュ、ニコール・ガルシア、フランソワ・シビル、マリー=アンジュ・カスタ、ギヨーム・グイ、シャルル・ベルリ
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