地中海の美しい島、マルタに受け継がれる伝統『ルッツ 海に生きる』公開

カテゴリー/ CULTURE |投稿者/ Gouret&Traveller
2022年06月16日

『ルッツ 海に生きる』

624日より東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

 

 

イタリア半島の先、シチリア島の南約100kmに浮かぶ島国、マルタ共和国。地理的に太古の時代からさまざまな文明が交錯し、古代遺跡から中世の繁栄までを物語る壮大な歴史遺産を誇り、首都バレッタは世界遺産に登録されている。

そんなマルタ島南東部に残る小さな漁村、マルサシュロックは古代から天然の良港として知られ、二千年以上昔からフェニキア人のお守りとして船首の両側に描かれた「オシリスの目」が施されたルッツと呼ばれる彩り鮮やかな船が並ぶ美しい景観で観光名所となっている。

一見牧歌的な観光地マルサシュロックで、何代にもわたりルッツを受け継ぐ漁師が伝統と誇りをいかに守り続けるか、その苦悩と葛藤をドキュメンタリータッチで描き出し、2021年サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門 俳優賞受賞SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021 国際コンペティショングランプリ受賞した、アレックス・カミレーリ監督のデビュー作である。

 

 

曾祖父の代から受け継いできた伝統の漁船ルッツに乗り、漁師をしている26歳のジェスマーク。不良続きのなか、ルッツの船底に水漏れを見つけるが、思うように収入が得られず修理の費用もない。しかも、生まれて間もない息子の発育不良が判明、その治療費も必要だった。裕福な実家を頼ろうとする妻と折り合いのつかないジェスマーク。夫婦間にも心のすれ違いが生まれつつあった。さまざまな苦悩から、はからずも道を踏み外していく。

ルッツは何世代にもわたって受け継がれてきた父と子、そして過去との絆。ルッツで漁を続けていけるのか、それとも伝統を守り続けてきたルッツを捨ててしまうのか。苦渋の選択を迫られることになる―。

 

 

大資本に翻弄され、伝統的な漁師の居場所が失われていく悲哀、人生の根幹を作り上げてくれる家族こそが、われわれの人生の自由や選択に制限をかけてしまうことの葛藤。どこまでも碧く輝く地中海と対照的なジェスマークの心の揺らぎが切ない。

監督は、実際にマルタでルッツに乗っている漁師、ジェスマーク・スクルーナを主演に据えた。漁で鍛えられた肉体に抑えた表情から滲み出る苦しみが胸を打つ。

イタリアのネオレアリズモ、ヴィットリオ・デ・シーカ、ルキーノ・ヴィスコンティ、ロベルト・ロッセリーニらの作品が、カミレーリ監督のインスピレーションの源だという。

シチリア島の漁村で、プロの俳優を使わない普通の漁師たちを撮ったヴィスコンティの『揺れる大地』を受け継ぎ紡ぎ出したこの作品は、ネオレアリズモに対するオマージュであり、生まれ故郷マルタの失われつつある伝統へのノスタルジーでもある。

 

 

 

 

『ルッツ 海に生きる』
出演:ジェスマーク・シクルーナ、ミケーラ・ファルジア、デイヴィッド・シクルーナ
監督:アレックス・カミレーリ
2021年/マルタ/カラー//95分
(c)2021 Luzzu Ltd
luzzu-movie.arc-films.co.jp

text Miki Yamashita

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