伝説の歌姫の光と影を綴る『ホイットニー・ヒューストンI WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
2022年12月25日
『ホイットニー・ヒューストンI WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
12月23日(金)より全国公開中
伝説の歌姫ホイットニー・ヒューストンの没後10年を迎えた2022年、世界的大ヒット作品『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本家が彼女の半生を描いた意欲作が公開された。
米LAのビバリーヒルトン・ホテルでの48歳の若さでの急死に、世界中が衝撃を受ける。数々のNo.1ヒットソングを生み出し、ビートルズの6曲連続全国首位の記録も塗り替えたホイットニー・ヒューストン。主演を務めた映画『ボディガード』の主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」の伸びのある高音で歌い上げる聞かせどころは、誰しも聞き馴染みがあるはずだ。
63年生まれのホイットニーのデビューは85年。大スター、ディオンヌ・ワーウィックの従妹であり、母親はアレサ・フランクリンのコ ーラス隊の中心メンバーというバックグラウンドを持ち、音楽業界とはもともと深い関わりがあった。その才能を見出したのは、業界の大立者、名プロデューサーのクライヴ・デイヴィス。本作中、ホイットニーが彼に披露する「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」はまさに圧巻で、鮮烈に印象を残すシーンだ。
性差別、人種差別、ゲイ差別、そしてドラッグ。多くのミュージシャンの栄光と挫折を語る道筋についてまわる苦難。ホイットニー・ヒューストンもまた通り抜けてきたこの道程を、短いシーンの連続によりスピーディーに展開させ、キャリアの始まりから謎の死を遂げるまでの光と影を、交互に織り込みながら綴っていく。栄光の裏に潜む葛藤や苦しみを、鮮明に焼き付けるこの手法により、ホイットニーの人生の栄華と零落が深く浮き彫りにされる。見る側が飽きることなく彼女の人生に没入することができるのだ。
まず、冒頭の映像の華やかさにひきこまれる。1994年、アメリカン・ミュージック・アワードのステージへ向かう栄光の頂点に立つホイットニー。そして、歌い出す直前、観客へ言葉を投げかけると同時に一転、フラッシュバックし、母親に歌唱指導を受ける少女時代、のちにマネージャーとなるガールフレンドとの出会い、母の代わりに務めた初めてのステージへと続き、エージェント的な役割の父との葛藤、人気歌手ボビー・ブラウンとの結婚、娘の出産や子育て、ドラッグとの闘いなど、時系列に整理され、印象的なエピソードのピースを繋げてストーリーを語っていく。そのフラグメントの合間合間に挟まれるのが、スーパーボウルでの国歌斉唱、『ボディガード』の撮影といった栄華を極める瞬間である。ドラッグに頼らざるを得ないアーティストの弱さを押し殺しながら、呈するのは世界に君臨する歌姫としての姿。
「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の名演で知られるナオミ・アッキーは、今回のホイットニー役の髪型とメイクでアイコニックなルックを創り上げ、圧巻の歌声を響かせる。歌の大部分には、ホイットニー自身の音源が使われており、劇中では代表曲を22曲を存分に堪能できる。
ホイットニーのアーティストとしての信念とこだわりは、この作品のテーマと言えるだろう。人気が出るほどに“商品”となり、儲けの道具として利用しようとする周囲に翻弄されながらも、自分が歌いたい曲だけを追い続ける信条を貫いた。
ヒットを出すたびに、”こんな曲はブラックミュージックではない”、”白人にへつらうな”、など中傷を背に受け傷つきながらも、人々の心に届けたいメッセージを歌にのせて伝え続けたホイットニー。ジャンルも人種も国境も超えた彼女の歌は、シンプルに人の心を打つ。ホイットニー・ヒューストンのアーティストとしての潔さに、もはや平伏するしかない。今も歌を続けていたら、どれほどドラマチックな旋律を奏でていただろうか、思いは巡るばかりだ。
『ホイットニー・ヒューストンI WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
監督 ケイシー・シモンズ 脚本 アンソニー・マクカーテン
出演者 ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース
「知られざる「森の京都」vol1. 綾部の里山と美食を訪ねる旅」
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