フランス人に愛されるパリの日本人シェフ⑦「レストラン ナカタニ」 中谷慎祐シェフ
2019年04月07日
レストラン ナカタニ (Restaurant Nakatani)
エッフェル塔や多くの政府行政機関が並び、サン・ジェルマン・デ・プレにも繋がる高級トレンドエリア、パリの7区。「ル・ボン・マルシェ」やロダン美術館にほど近い裏路地にあるレストランの扉を開けると間近にキッチンが目にとびこんでくる。そこで静かにゲストを迎えてくれるのは中谷慎祐シェフだ。野田真紅 アトリエ エスがインテリアデザインを手掛け、壁や梁など温かみあるナチュラルな空間。森の中の屋敷をイメージしたという落ちついた店内は、シックなランプが部屋を仄暗く照らす。エントランスにあるアンティークな鏡が別世界への入り口のようだ。広いテーブルの間隔は心地よく、プライベート感満載。さらに奥には半個室のようになったスペースがあり、ことさら外の喧騒と切り離された雰囲気を漂わせる。
厨房を一人で切り盛りしている中谷シェフは、漠然と手に職をつけようと思い、大阪の調理師学校へ進んだという。卒業後、学生時代からアルバイトをしていた京都の「エヴァンタイユ」や大阪の「ラ・メゾン・ブランシュ」で修行、基礎を学んだ。そのころ、19歳で南仏にある「ロアジス(L’oasis)」の2番手になったシェフのもとで働くことができたことに大きな影響を受ける。東京に行くのは気がすすまず、2001年、23歳でフランスに旅立った。
最初は日本の調理師学校が提携していたブザンソンの山中のレストラン、その後、アルザスに移動。南仏や山の町も含めてフランスの地方をぐるっと回ったところで、そろそろパリも見てみたいという気持ちになり、パリでの仕事を志望。ミシュランの星付きレストランに片っ端から手紙を出したり、日本人同士や日本の学校のネットワークで探した。
はじめは3年くらいの予定が、最終的に行き着いたパリの「エレーヌ・ダローズ(Hélène Darroze)」の元で10年にわたって、料理はもちろん、マネージメントに関しても学ぶことになる。2003年にパリで2つ星を獲得したレストラン(現在は1つ星)エレーヌ・ダローズ。ロンドン店は2つ星、モスクワ店も展開するなど女性シェフのトップランナーとして活躍し、「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」では世界最優秀女性シェフにも選ばれている。
エレーヌ・ダローズでの経歴は、日本よりフランスでのほうがいきてくると考えた。エレーヌ時代のゲストが来てくれることもあり、フランスでの店舗運営の経験が活かせる。独立も視野に入れて次のステップを考えていたころ、縁あって共同出資者が見つかり、2014年、レストラン ナカタニをスタートさせることになった。考えた末、響きがよいと感じて自分の名前を店名に決めた。2016年には星を獲得する。
高いお金を払って満足してもらいにはどうしたらよいか、を常に念頭においている。食べ手の感覚を意識したていねいで繊細な料理。食感や味覚のコントラスト、アンサンブルで新発見をさせてくれる。さまざまな食感・風味をもつ食材をうまく取り入れながら創造されるシェフのオリジナリティーは、目にも麗しいプレゼンテーションにも反映している。
菜園を持ち動物も飼って、できるかぎり自分で食材を作る、そしてそれを料理として出すオーベルジュをやってみたい、と夢を語る中谷シェフの職人気質の料理は、近隣のスノッブなフランス人を足繁く通わせている。
前菜
定番、にんじんのローストは、オーブンでじっくり焼く。生産者の良いにんじんならではの甘みが出る。フォアグラのコンフィ、フレーズ・デ・ボワと共にミキサーで回して柔らかくし、2年熟成和牛ハムをのせる。にんじんとパイナップルをにつめたソースを合わせる。
メイン ヒラメのポワレ。ゆでて食感が残るように炒めるキャベツと海辺に生えている塩味のサリコルヌ、コック貝、じゃがいもをオーブンでかりかりに焼いてくんせいにしたソースとともに。
デザート 上から生クリームのようにミキサーで回したパンナコッタ、その下がりんご。アールグレイをまぶして軽く火を入れたゴールドラッシュで、酸味はあってカリッと固く香りもある。栗のクレープ、金環の蜂蜜漬けとシソを添えて。
レストラン ナカタニ
27 rue Pierre Leroux 75007 PARIS FRANCE
tel.01 47 34 94 14
定休日:日曜・月曜
ランチ 12:30〜14:00
ディナー 19:30〜 21:00
コースのみ 昼55ユーロ、68ユーロ、夜125ユーロ、165ユーロ、220ユーロ