石戸谷結子の世界オペラ散歩⑲バーデン バーデン祝祭劇場とスパ天国

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2019年05月28日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」第19回は、春の音楽祭のなかから、バーデンバーデン祝祭劇場の「オテロ」を街とともにレポートしていただきます。

 

 

 

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オペラ好きにとって、毎年「イースター」の季節は悩ましいシーズンだ。なぜなら、ヨーロッパのあちこちで魅力的な「イースター・フェスティヴァル」が開かれ、どこに行くか決心するのが難しいからだ。カラヤンが創設したザルツブルグ・イースター音楽祭が有名だが、ベルリンやバーデンバーデンなどでも、趣向を凝らしたオペラ・フェスティヴァルが開かれている。それに加えて今年はこの時期にロンドンで、ヨナス・カウフマン、アンナ・ネトレプコ、リュドヴィク・テジエというトップスター3人が競演する、注目のヴェルディ「運命の力」が上演される。ロンドンかザルツブルグかバーデンバーデンか! と悩みに悩んだ末に、バーデンバーデンに行くことに決めた。

 

 

 

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バーデンバーデンはフランクフルトから電車で1時間半ほどにある保養地で、名前のとおり温泉で有名だ。バーデンは温泉の意味だが、バーデン=ヴュルテンベルク州にあるバーデンということで、バーデンバーデンと名付づけられたらしい。古くはローマ時代に温泉が作られ、いまもその遺跡が残されている。18世紀から19世紀にかけては、貴族や王族たちの保養地として栄え、ヴィクトリア女王やナポレオン3世、またブラームス、クララ・シューマン、ワーグナー、リスト、ベルリオーズなど作曲家たちも滞在した。街の中心にはスパ中心の宮殿のように豪華なフリードリッヒ温泉と近代的な大浴場のあるカラカラ・テルメ(写真上)がある。またドストエフスキーが通って、小説「賭博者」を執筆したというカジノや社交場クーアハウス(写真下)、温泉水を飲むトリンクハレなど、かつての栄華を偲ばせる美しい建物も残っている。こじんまりした街だが、花や緑が多く、公園の中に街があるよう。

 

 

 

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4月はサクラをはじめ、木蓮や藤など日本的な花々が咲き乱れて、まるで天国のように美しい。写真上は、藤の花が咲く市庁舎の建物。この街に古い駅舎をリニューアルした巨大な音楽ホール、バーデンバーデン祝祭劇場が出来てから、ハイクオリティのコンサートやオペラが上演されるようになった。2013年からはベルリン・フィルがここを本拠にして「イースター・フェスティヴァル」を開いている。サイモン・ラトルの指揮で「マノン・レスコー」「トスカ」「トリスタンとイゾルデ」などのオペラを毎年上演してきた。今年はオペラがズービン・メータ指揮の「オテロ」で、リッカルド・ムーティ指揮のヴェルディ「レクイエム」、キリル・ペトレンコの指揮、ソリストにコパチンスカヤを迎えたコンサートなどが行われた。

 

 

 

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この街に古い駅舎をリニューアルした巨大な音楽ホール、バーデンバーデン祝祭劇場(写真上)ができてから、ハイクオリティのコンサートやオペラが上演されるようになった。2013年からはベルリン・フィルがここを本拠にして「イースター・フェスティヴァル」を開いている。サイモン・ラトルの指揮で「マノン・レスコー」「トスカ」「トリスタンとイゾルデ」などのオペラを毎年上演してきた。今年はオペラがズービン・メータ指揮の「オテロ」(写真下)で、リッカルド・ムーティ指揮のヴェルディ「レクイエム」、キリル・ペトレンコの指揮、ソリストにコパチンスカヤを迎えたコンサートなどが行われた

 

クララとブラームスが愛を育んだ場所

昼間はのんびりショッピングを楽しんだり、温泉に浸かったり、あるいは真っ直ぐな散歩道がどこまでも続くリヒテンターラー・アレーを散歩したり。19世紀には貴族たちが馬車に乗って、あるいは徒歩で散策したというリヒテンターラー・アレーは、川に沿って優雅な道が続き、その両側にはいまも超高級別荘が並ぶ。バラ園や藤の咲く道を1時間ほど歩くとマキシミリアン通りに出る。

IMG_4639その高台の上には、1865年から1874年まで、毎夏ブラームスが滞在した別荘が建っている。いまは博物館となり、楽譜やゆかりの品々が展示してある。じつは恋人だった(あるいは友人?)といわれるクララ・シューマンの別荘が、そこから5分ほどの距離にある。二人はきっと、一緒にリヒテンタール・アレーを散歩し、ときには一緒に温泉に入っていたかもしれない。アレーのなかの公園には、二人の胸像が少し離れて置かれてあるのが、興味深い。ブラームスにとって、師匠でもあったロベルト・シューマンの未亡人との交友は、傑作を生むインスピレーションになったに違いない。果たして二人は密かな恋を育んだのか、あるいはプラトニック・ラブなのか。後年クララは、ブラームスと交わした手紙をすべて破棄したという。リヒテンタール・アレーとブラームスの別荘への散策は、永遠の謎に想いをめぐらす絶好の場所だ。
IMG_4641なお、バーデンバーデンの広場にはフルトヴェングラーの胸像もある(写真左)。ベルリン・フィルの指揮者だったフルトヴェングラーは晩年、肺炎のためにバーデンバーデンのサナトリウムに入院し、ここで亡くなった。墓はハイデルベルグの森の中にある。またピエール・ブーレーズも晩年はバーデンバーデンに住み、この地で亡くなっている(続)。

 

 

石戸谷結子
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

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