「母との約束、250通の手紙」母息子の絆を描くフランス文豪ロマン・ガリの自伝
2020年01月29日
「母との約束、250通の手紙」新宿ピカデリーほかにて1月31日より公開
フランスの三島由紀夫とも評される伝説の文豪ロマン・ガリ。外交官や映画監督、そして「勝手にしやがれ」の女優ジーン・セバーグの夫としての顔も持ち、1980年に拳銃自殺で最期を遂げる。その波乱万丈で数奇な人生を描いた「夜明けの約束」は、世界中で読まれている自伝であり、今回で2度目の映画化となる。日本で翻訳されたのは2017年というから、日本においては知る人ぞ知る小説だろう。
物語は、ロマン・ガリの回想録のようなスタイルで進む。母とともにロシア、ポーランド、フランス・ニースに移り住んだロマンは、激動の時代に翻弄されながらも、母の溺愛のもと、母の望みを叶えるべく懸命に生きていく。母はロマンがフランスでエリートの空軍パイロットとなり、作家として成功することを夢見て、息子の才能を引き出すべく滑稽なまでのスパルタ教育を施す。母のひとりよがりな押し付けに抗いながらも、成長したロマンは、母の望みを叶えるため、努力を重ねていく。人種差別にも負けず、自由フランス軍に身を投じることになるロマン。ニナは、フランス軍で活躍する息子に、次は作家への道を目指すようにと、プレッシャーをかける。小説を書くように、との命令ともとれる手紙が届き続ける。戦地でチフスに倒れ生死の境目を漂うロマンのもとへ現れたニナは、危篤の息子にすら作家になる命を厳しくつきつける。母の言葉をうとましく思いながらも、母の思いに抗えないある種の尊厳の念を抱くロマン。厳しい表現の裏には、母の愛情があふれていた。これほどまでに深い母息子の絆が存在するのか。
やがて、ロマンはパイロットとして戦地で活躍し、同時に念願の小説も出版される。変わらず届き続けるニーナの手紙。息子を思う言葉が散りばめられている。それなのに作家デビューを喜ぶ様子はない。あれほどの夢が叶ったというのに…。
シングルマザーとして息子ロマンを育てるユダヤ系ポーランド人移民のニナにシャルロット・ゲンズブール、母からの過剰な愛と重圧にあえぎながらも、母の夢をかなえようと必死に生きる息子役に「イヴ・サンローラン」のピエール・ニネ。2人の熱演もあり、セザール賞4部門ノミネート。動員100万人を超える大ヒットを記録した。
普段は囁くように語りかけるシャルロット・ゲンズブールが、イメージを払拭するような驚きの強い母を演じた。大声で怒鳴りちらし、カツラをつけ、体重を増やし、ポーランド語訛りのフランス語を身につけ挑んだ母役。この役のため、いわば完全武装して演技をすることができた、というシャルロット・ゲンズブール。スクリーンから飛び出さんばかりの迫力だ。
小説の映画化に意欲を燃やしていたエリック・バルビエ監督が、この自伝小説を母と息子の絆の物語に焦点をあてたところに感動したピエール・ニエ。ロマン・ガリそのものというより、エリック・バルビエ監督の解釈のロマンを演じることに取り組んだという。母を思う狂気を孕んだ芝居は、国立劇場コメディ・フランセーズの劇団員としても活動する演技派ピエール・ニエの真骨頂を見る思いだ。
予想をはるかに超える秘密が隠されたラストシーン。2人のバトルの果ての絆を思うと、涙を流さずにはいられない。
「母との約束、250通の手紙」
監督・脚本:エリック・バルビエ
出演:シャルロット・ゲンズブール、ピエール・ニネ
(C)2017-JERICO-PATHE PRODUCTION-TF1
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