時代順に辿る「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」至極の65点
2022年02月09日
メトロポリタン美術館展
西洋絵画の500年
2022年2月9日(水)〜5月30日(月)
東京・国立新美術館
メトロポリタン美術館正面入口 © Floto+Warner for The Metropolitan Museum of Art
先史時代から現代まで、5000年以上にわたる世界各地の文化遺産を包括的に所蔵するニューヨーク・メトロポリタン美術館。全17部門のなかのヨーロッパ絵画部門に属する約2,500点の所蔵品から、選りすぐりの珠玉の名画65点が、1月16日に閉幕した大阪展(大阪市立美術館)に続く巡回展として東京・国立新美術館にて展示されている。
15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで、歴史を彩った巨匠たちの名作群のうち、特に見どころは、ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》、カラヴァッジョ《音楽家たち》、ポール・セザンヌ《リンゴと洋ナシのある静物》、クロード・モネ《睡蓮》など日本初公開の46点。
本展では、15世紀初頭の初期ルネサンスを扱う第1章、17〜18世紀の絶対主義・啓蒙主義の時代の作品を紹介する第2章、そして第3章のロマン主義からポスト印象派まで、時代順に3章構成で西洋絵画史の500年を辿る。
本展の作品は、フラ・アンジェリコ、ラファエロ、クラーナハ、ティツィアーノ、エル・グレコらから始まり、カラヴァッジョ、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、レンブラント、フェルメール、ルーベンス、ベラスケス、プッサン、ヴァトー、ブーシェらを経て、ゴヤ、ターナー、クールベ、マネ、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌと、それぞれ時代別に展示される。
第1章 信仰とルネサンス
イタリアと北方ルネサンス絵画を展示。中世は、キリストの教議を主題とすることが絵画の役割だったが、15世紀には、フィレンツェを中心に古代ギリシアやローマの神話を題材とした作品が登場するようになる。
《キリストの磔 刑 》1420-23年頃 フラ・アンジェリコ(本名 グイド・ディ・ピエトロ) テンペラ/金地、板 63.8×48.3 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Maitland F. Griggs Collection, Bequest of Maitland F. Griggs, 1943 / 43.98.5
初 期 ル ネ サ ン ス の イ タ リ ア を 代 表 す る 画 家 フ ラ ・ ア ン ジ ェ リ コ は、ド ミ ニ コ 会 の 敬虔 な 修 道 士 で、没後まもなく「天使のような修道士」(フラ=修道士 アンジェリコ=天使のような)と呼ば れるようになる。一点透視図法を用いて三次元空間を表現した最初の画家の一人 。キ リ ス ト の磔 刑 場 面 を 描 い た こ の 作 品 は 、背 景 が 金 地 で 埋 め 尽 く さ れ 、非 現 実 的 な 設 定ですが、十字架を取り囲む人々が手前から奥に向かって楕円形に配置され、空間の奥行き が 表 現 さ れ て い る。中 世 美 術 の 非 現 実 性 ・ 平 面 性 と ル ネ サ ン ス 美 術 の 現 実 性 ・ 三 次 元 性 が 融合した、初期ルネサンスの貴重な作例だ。
ほかにはキリストの人間的な苦しみを描いたラファエロ・サンツィオ《ゲッセマネの祈り》、独特の官能性と細部の緻密な描写が特徴的なルカス・クラーナハ(父)《パリスの審判》などルネサンスを代表する作品が並ぶ。
第2章 絶対主義と啓蒙主義の時代
絶対君主体制がヨーロッパ各国で強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛した18世紀にかけての国境を超えて名声を博した巨匠たちの作品を紹介。
《信仰の寓意》1670-72年頃 ヨハネス・フェルメール 油彩/カンヴァス114.3×88.9cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 / 32.100.18
1 7 世 紀 オ ラ ン ダ の 画 家 フ ェ ル メ ー ル は 、オ ラ ン ダ 市 民 の 日 常 を 描 い た 小 ぶ り の 静 謐な風俗画で有名だが、晩年のこの作品は彼の全作品の中でも異例の寓意画 である。キ リ ス ト の 磔 刑の 絵 画 を 背 に し て 座 る 女 性 は 、「 信 仰 」 の 擬 人 像 。 胸 に 手を当てる仕草は心のなかの信仰を示し、地球儀を踏む動作はカトリック教会に よ る 世 界 の 支 配 を 示 唆 す る も の と 解 釈 さ れ る。 十 字 架 、杯 、ミ サ 典 書 が 載 っ た テ ー ブ ル は 聖 餐 式 を 暗 示 している 。 床 に は 原 罪 を 表す リ ン ゴ と 、キ リ ス ト の 隠 喩 で ある教会の「隅の親石」に押しつぶされた蛇が見いだされる。プロテスタントを 公 認 宗 教 と し た オ ラ ン ダ 共 和 国 で は 、カ ト リ ッ ク 教 徒 は 公 の 場 で の礼 拝 を 禁 じ ら れたが、「隠れ 教会」と呼ばれる家の中の教会でミサや集会を行うことは容 認 さ れて い た 。 こ こ に 描 か れ た 部 屋 は 、こ う し た 教 会 な の か も し れ ない。 フ ェ ル メ ー ル はお そ ら く 1 6 5 3 年 の 結 婚 を 機 に カト リ ッ ク に 改 宗 し て い る 。
《音楽家たち》1597年 カラヴァッジョ(本名 ミケランジェロ・メリージ) 油彩/カンヴァス 92.1×118.4cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1952 / 52.81
1 7 世 紀 イ タ リ ア の 最 大 の 巨 匠 カ ラ ヴ ァ ッ ジ ョ は 、迫 真 的 な 写 実 描 写 と 劇 的 な 明 暗 表 現 に よ っ て 、 バ ロ ッ ク 様 式 の 立 役 者 と な った 。《 音 楽 家 た ち 》 は 1 5 9 7 年 、 2 6 歳 の カ ラ ヴ ァ ッ ジ ョ が 、最 初 の パ ト ロ ン と な っ た デ ル ・ モ ン テ 枢 機 卿 の た め に 描 い た も の で ある。 こ の 年 、カ ラ ヴ ァ ッ ジ ョ は デ ル ・ モ ン テ 邸 に 食 客 と し て 迎 え ら れ た 。 芸 術 を 庇 護 し たデル・モンテの館では、若者たちが音楽や演劇の集いを開いており、カラヴァッジョ は 彼 ら を モ デ ル と し て こ の 作 品 を 描 い た よ う で ある。 と は い え 、左 端 に キ ュ ー ピ ッ ド が 描 か れ て い る た め 、 合 奏 の 情 景 の 単 な る 再 現 で は な く 、「 音 楽 」 と 「 愛 」 の 寓 意 が 主 題 で はないかと推測されてきた。右から2 番目、角笛を手にした若者はカラヴァッジョ の 自 画 像 と 言 わ れ て い る。 滑 ら か な 白 い 肌 の 若 者 た ち は 両 性 具 有 的 で 、カ ラ ヴ ァ ッ ジョ特有のけだるい官能性を漂わせている。
ほかには、フランスの古典主義の礎を築いたニコラ・プッサンの《足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ》、優美なロココ美術を最盛期に導いたフランソワ・ブーシェの《ヴィーナスの化粧》などが登場する。
第3章 革命と人々のための芸術
19世紀、産業革命により生まれたヨーロッパにおける市民社会を背景に、ロマン主義や写実主義、印象派、ポスト印象派の作品を辿る。
《睡蓮》クロード・モネ 1916‒19年 油彩/カンヴァス 130.2×200.7cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Gift of Louise Reinhardt Smith, 1983 / 1983.532
モネは、ジヴェルニーの自邸の庭に造った睡蓮の池を1897年頃からモチーフとし、 約 3 0 年 間 描 き続 け た 。 こ れ を 描 き 始 め た 時 か ら 、睡 蓮 の テ ー マ で 一 室 を 飾 る 構 想 を 立 て 、1 9 1 5 年頃 か ら モ ネ が「 大 装 飾 画 」と 呼 ん だ 大 画 面 の 作 品 を 次 々 と 生 み出した。その中の一つである本作には、当時白内障に侵されていたモネが 見たヴィジョンとも言える遠近感のない不思議な光景が広がっている。空や様々 な 植 物 が 池 の 水 に 反 映 す る 虚 構 と 、水 面 の 睡 蓮 の 葉 や 水 中 の水 草 と い っ た 現 実 の 対 比 か ら 画 面 は 構 成 さ れ 、そ れ が 青 、緑 、黄 、白 な ど の 縦 横 無 尽な 筆 致 で 彩 ら れ て い る 。 こ う し た 抽 象 化 さ れ た 画 面 は 、抽 象 表 現 主 義 の 先 駆 け と して 評 価 さ れ、まさに前衛画家モネならではの作品となっている。
《りんごと洋なしのある静物》ポール・セザンヌ 1891-92年頃 油彩/カンヴァス 44.8 × 58.7 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Bequest of Stephen C. Clark, 1960 / 61.101.3
こ の 作 品 に 描 か れ た リ ン ゴ と 洋 ナ シ は 、堅 固 な 形 態 を 持 ち 、並 々 な ら ぬ 存 在 感 を 放っ て いる 。 机 は 傾 き 、壁 は 歪 ん で い る よ う に 見 え るが 、画 面 内 の 全ての要素が絶妙なバランスで描かれており、構図には確かな安定感がある。南 仏 の エ ク ス = ア ン = プ ロ ヴ ァ ン ス で 制作 に 没 頭 し た ポ ー ル ・ セ ザ ン ヌ は 、観 察 か ら 得 た 生 き 生 き と し た 感 覚 を カ ン ヴ ァ スに 再 現 す る こ と に 挑 んだ。あまりに革新的であったセザンヌの作品は、当時の大衆からは受け入れ ら れ なかった が 、先 進 的 な 画 家 や 美 術 批 評 家 た ち か ら は 称 賛 さ れ 、そ の 死 後 に は キュビ ス ムを はじ め と する 2 0 世 紀 初 頭 の 前 衛 芸 術 に 多 大 な 影 響 を及ぼした。
ほかにヴェネツィアの大運河を描いた《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・ サルーテ聖堂の前廊から望む》、オーギュスト・ルノワール《ヒナギクを持つ少女》、晩年のクロード・モネの《睡蓮》、ポール・セザンヌ《リンゴと洋ナシのある静物》ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーなど、20世紀初頭の前衛美術にもつなが絵画が日本初公開となる。
東京展:2022年2月9日(水)~5月30日(月)
会場:国立新美術館
休館日:火曜日(ただし5月3日は開館)
開館時間:10時~18時(毎週金曜・土曜日は20時まで)※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般2100円、大学生1400円、高校生1000円※事前予約制(日時指定券)
*画像写真の無断転載を禁じます
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