絶景を旅しよう! 写真家・三好和義さんが教える「楽園写真術」
2018年04月29日
写真家・三好和義氏の新刊「三好和義の直伝 楽園写真術』(朝日新聞出版刊 1600+税)は、「楽園」という絶景を訪ねながらの風景写真撮影の入門書。本書のなかから、三好和義さんに初心者でも傑作が写せるワザを教えていただきます。
何もない限りない青い海と空、白い砂浜ーモルディブ、タヒチ、ハワイなど「楽園」を取り続けてきた写真家、三好和義さんのオススメの絶景の旅に出かけてみませんか?
宮古島
故郷の四国・徳島の駅前には南国のシンボル、ヤシの木がたくさん植えられています。小学校時代、実家がバナナ屋さんだったので、南国の香りに溢れ、幼い頃からヤシの木の下で遊んでいました。写真を仕事にしたいと思うようになったのも、海や南国に行けるという夢があったからだったのです。
実は、楽園写真の原点は、高校2年のとき、ニコンサロンで行った写真展のテーマ、宮古島の海なんです。中学のころから宮古島に通って写真を撮っていました。
浜辺は基本的に何もないので変化がありません。まずおもしろそうな場所を見つけたらそこに立ってファインダーを覗いてみること。波打ち際で撮るにはレンズができるだけワイドで20ミリくらいが良いでしょう。海が広く取れるし、空のグラデーションもきれいに出ます。スケール感、奥行き感がでやすいです。波の表情は速度にシャッター速度によってまったく変わります。
オートで撮影するとカメラのちょっとした振りや白波の大きさによって露出が変わってしまいます。絵作りはPLフィルターを使って海の色とコントラストを出します。波の形は常に変わるので、自分自身が前に行ったり横に行ったりしながら、自由なアングルと高さで、手持ちで撮影しましょう。最近のデジタルカメラは、水の質感がほんとうによく写ります。
写真は、宮古島の世渡崎で撮影した作品。ニライカナイの入り口というイメージで撮影しました。ポイントは右の突き出した竜の頭のような岩。太陽の位置が変わると海の色がまったく変わってしまいます。海は一日中撮影していても飽きません。
富士山
河口湖 、大石より
タヒチ、モルディブ、サハラ砂漠と海外ばかり撮影していましたが、そんななか日本を写したいと言う気持ちが次第に高まってきました。一番撮りたかったのは、富士山です。富士山は日本の象徴として外すことのできない絶景。毎日撮っても飽きないほど表情が変わります。初心者であってもうまく撮れることも富士山の魅力です。
富士山を撮るのであればやはり「逆さ富士」。ベスト撮影ポイントは、山中湖と河口湖です。人造湖の田貫湖も知られざる撮影スポットです。
撮影に適した時期は11月から3月ぐらいまで。山頂付近にある雪をクリアに撮ることができます。
デジタルカメラであればかなり朝早く暗いうちから撮影できます。撮影ポイントに日の出、日没の1時間前、できれば1時間半前には到着したいところです。
逆さ富士を撮るには湖面の静かなところを探しましょう。特に西湖は少し移動するだけで湖面の状況がまったく変わります。
山中湖は、富士山の向こうに沈む夕日と夕焼けが撮れます。朝の姿も美しい。また、平野付近は波が静かで逆さ富士を取りやすい場所です。
河口湖は、湖と組み合わせるには一番クラシックな撮影ができる場所です。裾野の形が最もきれいで、均整のとれた姿が写せます。
西湖は、山に囲まれた湖で西湖からのみ富士山が大きく見えます。湖岸に下りられるのでさざ波のないところを探しましょう。
田貫湖は、人造湖で、逆さ富士やダイヤモンド富士が撮れる重要な撮影スポットです。湖面も静かで映り込みが撮りやすいポイントです。
日の出前から日の出直後、日没直前から日没後、富士山の姿はみるみるうちに変わっていきます。そこに雲や月、星を入れたいと思ったらシャッターチャンスをつかむことがとても大事です。富士山と自分の気持ちがピタッとあったときにいい写真が撮れます。
写真は夜明け前、まだ真っ暗ななか河口湖、大石から。写してみると肉眼では見えない富士山と、星が写っていました。こんなに暗い時間でも富士山が写るんだと思い驚いた作品です。
知床
知床という地名はアイヌ語で突端を意味する「シリエトク」に由来します。知床半島はオホーツク海に鋭く突出しています。冬の訪れとともにシベリア沿岸から氷り始め、1月下旬になると、知床の海も一面氷に覆われます。この流水が知床の豊かな資源自然を育みます。凍った海面に絞り出されるように、塩分濃度が高く、重い海水は底に沈んでいきます。この循環によって海底の栄養分が海面に浮かび上がり、大量のプランクトンを育て、それがニシンやサケのエサとなり、さらにそれらをワシやヒグマが食べ最後は森の土へと帰っていきます。
高山地から一気に海に落ち込む知床の険しい地形。雪の中の撮影では知識と経験が必要です。雪は真っ白なので露出や色調、コントラストなど冬ならではの配慮も必要です。写真撮影は朝早く出かけてじっと被写体や光をまたなければなりません。そのため寒さの中でいかに心地よく集中して撮影続けられるかが重要になります。手袋はアウターとインナーに分かれた三本指のオーバーミトンが暖かく三脚の操作も楽にできます。さらにカイロを用意してポケットの中に入れておけば、冷えた指先を暖められます。夜間撮影の場合はレンズが曇らないようベンジンカイロ(飛行機にのせられないので注意)、灰式カイロを使います。
雪が深い場合は靴にスノーシューを装着します。足元がアイスバーンになることも想定して簡易アイゼンかチェーンスパイクも持っていきましょう。頭にはウールやフリースの帽子で保温性を高めます。カメラのバッテリーは低温だとバッテリーレベルが低下しないやすいので予備を十分に持っていきましょう。撮影後はカメラからメモリーカードを取り出してティッシュペーパーに包みジッパー付きの食品保存袋等の機密性の高い袋に入れて部屋に持ち込みます。結露しないようにゆっくりと温めてパソコンで読み取ります。レンズも三脚も結露しないように水気を拭き取りましょう。
流氷は白いのでカメラの露出計の指示通りに取るだけでは薄暗くグレーに写ります。ヒストグラムを見ながらどこまで明るく写すかを考えハイライトがとばないように撮影しましょう。
流氷が接岸せず沖にあるときは観光船を利用して撮りにいくとかなり近くから迫力のある姿が撮れます。
道路わきにあるオシンコシンの滝は、夏は緑がきれいな滝です。夏と冬のコントラストを撮るのもおもしろいでしょう。冬は雪と氷に覆われますが完全には凍らず部分的に切り抜いたように水が流れていました。
夏の知床も絶景です。大型の野生動物が生息しています。初めてこの地を訪れたときに、エゾジカを見るにはどこに行ったらいいですか? と尋ねたのですが、シカは奈良のようにどこにでもいたのです。
とはいっても相手は野生動物なので人間に見られていることに気がついた瞬間に逃げてしまいます。追いかければなおさら逃げます。写すぞ、という気迫が伝わってしまうと絶対に失敗してしまいます。撮ろうとする気配を消し去ると、相手はこちらを向いてくれることが多いです。大切なのは動物と視線を合わせないこと。カメラを向けても視線が別の方向を向いていれば動物の強警戒感は相当和らぎます。
シカは普通下を向き地面の植物を食べていることが多いのですが、それでは絵にならない。こちらを見た瞬間がシャッターチャンスになります。
知床ではキタキツネにもたくさん出会います。寄生虫を持っているので、近寄らずに撮影することが必要です。
望遠レンズで撮影する際は背景を考えながら撮影地を決めます。カメラの高さは相手の目線の高さに合わせるのが基本でキツネの場合は膝を地面につけて撮るか三脚を使う場合はローアングルにできるものを用意します。
ウトロの町のすぐ近くにはオロンコ岩という高さ約60メートルの断崖絶壁に囲まれた岩山があり、たいへんな数の海鳥のすみかになっています。頂上まで170段の階段を上るとちょうど写しやすい距離に鳥が飛んでいます。夕方に望遠と広角レンズを持って登ると必ず収穫がある場所です。
小笠原
東京浜松町近くの竹島桟橋から南へ約千キロ。おがさわら丸は小笠原諸島の父島と東京約24時間かかります。およそ6日で1往復。東洋のガラパゴスと呼ばれるゆえんです。絶海の孤島だけあって海の透明度は世界でも指折りの素晴らしさ。特に父島のジニービーチや南島の海はエメラルド色で、ハワイやモルディブをさんざん撮ってきましたが、こんな色の海を見たことがないと思ったくらいの絶景です。
こんな美しい浜辺の風景を撮るのも楽しいのですが、小笠原は海や森に広がる生き物の楽園でもあります。
小笠原ではクジラを至近距離で見ることができます。ここはハワイと並ぶザトウクジラの繁殖地で、毎年冬から春にかけて、体長13メートル、体重40トンもある巨大なクジラの姿を見ることができるのです。ザトウクジラのシーズンに合わせてさまざまなツアーが開催されます。小笠原村観光協会や小笠原ホエールウォッチング協会のホームページを参考に参加してください。ツアー船のほとんどが父島の二見港から出発します。船同士が無線で連絡を取り合い、ザトウクジラがいる海域に案内してくれます。
クジラの行動でよくみられるのが水面に少し背を出して息継ぎをするブロー。いわゆる潮吹きです。深く潜水する際は大きな背中を弓なりに見せ、尾びれを海面に持ち上げ逆立ちをするように急角度で海中に姿を消します。一度潜ると10分から15分が出てきません。最も迫力があるのは鯨が水面から飛び出すジャンプ。ツアー先では、「こっちから出るよ」と教えてくれたり、クジラに近づける位置に回り込んでくれます。レンズは70から200ミリクラスの手ぶれ補正機能付きのズームレンズが一番使いやすいでしょう。被写体が大きいのでこのくらいの焦点距離でも十分撮れます。感度を上げ2000分の1くらいのシャッターを切るようにしておきましょう。
クジラを見に行く時はイルカにもよく出会います。イルカは小笠原沿岸に年中いるのでクジラよりも簡単に撮影できます。大群に囲まれたり、出港したら向こうから寄ってきて舳先を先導するように泳ぐこともあるフレンドリーな動物。イルカの群れが近寄ってきたらしばらくはそのあたりにいるので落ち着いて撮りましょう。
イルカは近くから広角レンズで撮ることが多いです。レンズを真下に向けないで、水平線を入れて取る方法もあります。凪の時にイルカに出会うとイルカが海の中に浮かんでいるような不思議な写真が撮れたりします。
さらに小笠原の魅力は森にもあります。大きなシダの生える森には独自の進化を遂げた固有の植物や動物動物がたくさんいます。そんな撮影で頼りになるのはガイドさん。こんなものを見たいと相談すれば場所や時間を教えてくれます。
暗い森の中を撮るには三脚が必要でカーボン製の軽いものを。高い植物は下から見上げて撮ると緑の葉に光が透けてきれいです。木が生い茂った様子は広角レンズを使うと南国らしく撮れます。植物の細部を取るにはマクロレンズを用意しておくといいでしょう。
日光
東京近郊でよく行くのが日光です。色折々の絶景があり日本の四季の美を撮ることができます。コンパクトな範囲に良い被写体がたくさんあり、気軽に本格的な冬の絶景の撮影を楽しめる貴重な場所です。奥日光はちょうど吹き降ろし口にあるため乾燥した粉雪が舞います。晴天に恵まれることが多く、積雪は少ないものの、気温は非常に低く、一度降った雪はなかなか溶けないため、湖や滝は凍りつきます。深い雪の時はスノーシューを使います。三本松茶屋ではレンタルを行っているので必要に応じて利用しましょう。小田代原のシラカバには「貴婦人」と呼ばれる有名な木があります。また、小田代原の南にある中禅寺湖では「しぶき氷」を撮ることができます。これは強風にあおられた波のしぶきが岸辺に降り注ぎ、凍りついたものです。しぶき氷ができやすい場所は、湖の風下の水日光山中禅寺・立木観音付近です。氷の風景は光の条件によって大きくイメージが変わります。まず太陽の高い昼ごろに撮影し、再び夕方の日没後などに訪れると良いでしょう。
奥日光には火山の噴火によって川がせき止められてできた滝がいくつもあります。華厳の滝もその一つです。約100メートルの高さから水が落下し、霧のようになった水流は、風でどんどん姿を変えていきます。時間によって滝を照らす光の方向が変わり、さまざまなバリエーションが撮れます。
竜頭滝も訪れるたびに氷の形や状態が変わり、違った写真が撮れます。構図のポイントは2つあり、まずは、水流の落下地点まで写し込むこと。もう一つは、木などの入れ方。繊細な細い枝が入ると、スケール感と緊張感が生まれます。撮影位置が左右に1メートル移動するだけで、枝の写り方が変わってきます。
Photos Kazuyoshi Miyoshi
三好和義(みよし かずよし)
1958年徳島生まれ。中学の時に写真を始め、
高校時代には、銀座ニコンサロンで最年少で
個展を開催。大学時代には雑誌などで本格的
にプロとしての活動を始める。27歳の時、初
写真集「RAKUEN」で当時最年少記録で木村
伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマに世
界中で撮影。出版した写真集は50冊を越える。
近年は日本文化に関する撮影も多く「京都の
御所と離宮」「室生寺」などを発表。昨年末
より、東大寺撮影のために奈良に居をかまえ
ている。
写真展情報
~5月27日
TFUギャラリーミニモリ(東北福祉大学仙台駅東口キャンパス内)
「東大寺・奈良を彩る花の襖絵展」にて
東大寺の写真作品を展示(13点)
4月28 日~6月24日
東北歴史博物館(宮城県多賀城市)
「東大寺と東北 復興を支えた人々の祈り」展にて
会場内写真展示と図録に写真提供
7月3日〜13日 東大寺境内内「本坊」に、特別写真展「天空の楽園」を開催
「名料理人のスペシャリテ 美食リレー⑭旬の味を進化させる「モノリス」」
「緑あふれる庭園美術館でロマンに浸る「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」」