『私は、マリア・カラス』未公開の資料をコラージュしたドキュメンタリー
2018年12月17日
『私は、マリア・カラス』
12月21日 東京・日比谷TOHOシネマズ シャンテ、渋谷Bunkamura ル・シネマほか全国で順次公開
原題は『Maria by Callas』、「カラスによるマリア」。スキャンダルやバッシングの中でも歌い続ける“カラス”と、一人の女性として愛を切望する“マリア”。つまりこの作品は、マリア・カラスの人生を自らが紐解くドキュメンタリーとなっているのだ。
オペラに興味のない人にもその名を知られる不世出のレジェンドながら、カラスの歌の最盛期は10年程度だった。歌う姿を実際に見たことがあるオペラファンも少ないことだろう。本作品では、カラスの歌が10曲以上映像で堪能できる。「蝶々夫人」より 「なんて美しい空」、「ノルマ」より「清らかな女神よ」、「カルメン」より「ハバネラ」、「トスカ」より「歌に生き、恋に生き」など誰でも聞き覚えのある曲が劇中で歌われる。歌い手でありながら、女優魂を持っていた彼女の美しく凛とした歌唱は歌詞の一語一句が心に染み入る。これら歌の映像だけでもファンにとっては涙するほど貴重なシーンだ。
ギリシャ移民の子としてニューヨークで生まれたカラスは、離婚してギリシャに戻った母に育てられ、年を偽って13歳でアテネ音楽院に入学、オペラの歌唱法「ベルカント」を学ぶ。アメリカに戻るもオーデションに合格することなく、失意の日々を過ごす。やがてイタリアで認められるようになるとともに、28歳年上の実業家と結婚。世界各地のオペラハウスで大成功を収めるが、ローマ歌劇場で体調不良を理由に舞台を途中降板、大バッシングを受ける。その頃出会ったギリシャの海運王、アリストテレス・オナシスと恋に落ち、夫との離婚騒動が持ち上がるなか、恋人だと確信してきたオナシスが、故ケネディ大統領夫人のジャクリーンと結婚したことを、なんと新聞で知るのだ。
本作は、そんな波瀾万丈の一生を送った彼女の舞台での姿やインタビュー映像に加え、秘蔵映像や音源、未完の自叙伝、封印されてきたプライベートな手紙などの言葉をつなぎ合わせてカラスの人生をコラージュしていく。
それら膨大な資料を探し求めるため奔走したトム・ヴォルフ監督。自宅でリラックスする様子や友人たちとクルーズを楽しむ姿を収めた8ミリ映像、16ミリのプライベートフィルム、熱狂的なファンが無許可で撮影したパフォーマンス映像、お蔵入りとなったテレビインタビューなど、よくぞここまでの素材をそろえた、と驚嘆する。しかも半分以上が初公開素材だ。
ヴォルフ監督のこの執念は、26歳のとき、医学を勉強したいと渡米したことに始まる。メトロポリタン歌劇場でドニゼッティの作品を観劇後、インターネットでドニゼッティを検索して偶然見つけたのがカラスの歌だった。「一瞬で心を揺さぶられた」というカラスとの運命的な出合いである。
以来、世界中を巡り、カラスの知人から数多くの資料を入手する。400通を超える手紙はマリア・カラスの真の姿が描かれていた。友人や関係者の証言をほとんど入れず、彼女の言葉だけでつなぐことを決めた理由だった。カラスが文字で綴った言葉だけは、映画「永遠のマリア・カラス」(2002年)でカラスを演じた仏女優、ファニー・アルダンが朗読している。
1950年代から70年代前半にかけてのオープンリールの音声、映像のフィルムもすべてデジタル修復。モノクロ映像も写真をもとにカラー化し、現在もカラスが存在するかのような臨場感を生んだ。
マリア・カラスのことを知らない人は、カラスというディーバを発見する。知っている人は再評価する。過去のカラスを扱った映画と一線を画す、カラスの真実を魅せる人間ドラマだ。
文*山下美樹子
監督: トム・ヴォルフ
朗読: ファニー・アルダン(『永遠のマリア・カラス』)
配給 ギャガ
https://gaga.ne.jp/maria-callas/
©2017 – Eléphant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinéma
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