2022年、ザルツブルク音楽祭、注目はプッチーニ「三部作」、そして、女性の時代?

カテゴリー/ CULTURE |投稿者/ Gouret&Traveller
2022年12月15日

2022年夏の音楽祭めぐりVol.2

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡りオペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」、コロナ禍を経て久々に再会。今回は、2022年ザルツブルク音楽祭注目のプッチーニ作曲「三部作」などをレポートしていただきます。

 

ウィーンからザルツブルグ音楽祭へ 今年のテーマは、「ダンテ・アリギエーリの神曲」

ザルツブルグの街かどで、アルバイトで演奏している学生たち

グラフェネク音楽祭を観たあとは、ウィーンからウエストバーンという列車に乗ってザルツブルクへ。3年ぶりのザルツブルグの街は、からりと晴れた青空に教会の鐘が鳴り響き、ゲトライデガッセの賑わいも、以前と少しも変わっていないように見える。それでも街ゆく人にマスク姿がちらほら。閉まったままの店もいくつかあり、コロナ禍はこの有名観光地にもしっかり影を落としている。

さて、ザルツブルグ音楽祭。昨年は創設から100周年で、新演出が並んでスター歌手が顔を揃えたが、今年の演目はかなり地味。オペラ8演目のうち、新演出は3本だけで、2本はコンサート形式だ。今年はウクライナ戦争もコロナ禍も、音楽祭の経営に少なからず、影響を与えているのだ。

プログラムで最も注目されたのが、テオドール・クルレンツィス指揮、ロメオ・カステルッチ演出の、バルトーク作曲「青ひげ公の城」とカール・オルフの「時の終わりの劇」の2本立て。クルレンツィスはギリシャ生まれだが、活動基盤はロシアのウラル山脈の近くにあるペルミという都市で、オーケストラのムジカ・エテルナの奏者はロシア人が中心。彼らはロシアのメガ・バンクから財政支援を受けており、音楽祭も同様の援助を受けていたといわれる。そのため数ヶ月前には、公演がキャンセルされるのではと、憶測されていた。しかし音楽祭事務局は、ムジカ・エテルナを降板させ、代わりにマーラー・ユーゲント・オーケストラを起用して、この難関を乗りきった。また、歌手やピアニストなどにコロナ感染者が出て、キャスト変更が相次いだ。

 

ザルツブルグの新女王さま、アスミック・グリゴリアン

SALZBURGER FESTSPIELE 2022「プッチーニ3部作」写真上から「外套」。ジョルジェッタと恋人のルイージ。  写真中央「修道女アンジェリカ」グリゴリアンと伯母の伯爵夫人役、カリタ・マッテラ」写真下「修道女アンジェリカ」のカーテンコール。中央は、指揮者のフランツ・ウェルザー=メスト」SF/ Marco Borrelli

今年観ることができたのは3演目。まずは今年の目玉といわれたプッチーニ作曲「三部作」。音楽祭の今年のテーマは「ダンテ・アリギエーリの神曲」なので、「三部作」が選ばれた。(「ジャンニ・スキッキ」の原作は「神曲」)。この三作すべてに主演したのが、リトアニアのソプラノ、アスミック・グリゴリアン。彼女はこれまでザルツブルグで「ヴォツェック」「サロメ」「エレクトラ」に出演して大人気になっていた。今年も街が出している雑誌の表紙を飾り、ショップのウィンドーにも彼女の写真が飾られ、まるで「ザルツブルグの新女王」のよう。これまでネトレプコが女王さまだったのだが。

 

 

 

 

SALZBURGER FESTSPIELE 2022「外套」でジョルジュエッタを歌う、アスミック・グリゴリアンSF/ Marco Borrelli

「三部作」の指揮はフランツ・ウェルザー=メストで、演出はクリストフ・ロイ。最初は「ジャンニ・スキッキ」で、フィレンツェを舞台にした喜劇。グリゴリアンはラウレッタ役で、「お父様、お願い!」のアリアを可憐に歌いあげた。

続く「外套」は、年老いた夫を捨てて不倫に走るジョルジュエッタを、体当たり演技で演じた。緊迫感のあるドラマチックな歌唱で、ヴェルズモ・オペラをみごとに歌い上げた。

最後の「修道女アンジェリカ」では、亡くなった息子を抱きながら自殺するアンジェリカを劇的な声で歌い、聴衆総立ちになった盛大な拍手が続いた。彼女はウィーン、ロンドン、ミュンヘンと一流歌劇場でも大活躍。昨年はバイロイト音楽祭にも「さまよえるオランダ人」のゼンタ役でデビューを果たし、いま最も乗っているソプラノだ。なお、アスミック・グリゴリアンは11月18日と20日、オペラ「サロメ」に主演するため、初来日する。

 

 

 

 

SALZBURGER FESTSPIELE 2022「「アイーダ」のラダメス(ピョートル・ベチャワ)とアイーダ(エレーナ・スティッキナ)SF/Ruth Walz

ヴェルディの傑作「アイーダ」は、2017年にシリン・ネシャトの演出でプレミエ上演された演目。5年前のこの舞台も見たが、かなり演出が手直しされ、ネシャトが表現するテーマもはっきり示された。彼女はイラン出身、ニューヨークで活躍するアーティスト。民族の対立というテーマを前面に出し、宗教支配や女性差別も織り込んで、現代にも共通する問題を浮き彫りにした。5年前はリッカルド・ムーティーの指揮で、主演はアンナ・ネトレプコ。超話題の公演だったが、一般の聴衆は、暗い舞台に戸惑った様子で、評判はあまり良くなかった。しかし今回は指揮が若手のフランス人アラン・アルテノグリュに代わり、テンポも速くドラマチックな演奏で、大好評を博した。歌手ではアイーダ役のエレーナ・スティッキナが可憐だが、ちょっと迫力に欠けた。ラダメスは、安定した声と表現力を持つピョートル・ベチャワ。この役ではロール・デビューだが、出だしのアリアを輝かしい声で歌いあげた。アムナスロ役のルカ・サルシは、迫力ある演技と表現力でひときわ舞台で存在感を示した。アムネリス役のラチヴィリシュヴィリはコロナ感染で降板、代役のフローレ・ファン・メールシュが姿もよく、声もよくのびて、大喝采を受けた。

 

 

 

 

SALZBURGER FESTSPIELE 2022  写真上:「魔笛」より 写真下:指揮をした指揮者のヨアナ・マルヴィッツ(左)と演出家リディア・シュタイアー(右)の女性コンビSF/ wildbild

モーツァルトの「魔笛」2018年にプレミエ上演された、リディア・シュタイアーの演出。お祖父さんが3人の孫に本を読んであげているうちに、舞台が始まる。上下左右に舞台が分かれ、登場人物がそれぞれ演技をするので、見ている方は目まぐるしい。なぜか戦争シーンが映像で流れ、ちょっと現代のテーマも織り込んだファンタスティックな演出だ。歌手は4年前から一新(タミーノだけ同じ歌手)して若手に変更。パミーナ役のレグラ・ミューレマンはいま注目のソプラノで、美しい良く透る声の歌手。ブレンダ・ラエが夜の女王を歌った。

この公演で最も注目されたのが、指揮者のヨアナ・マルヴィッツ。若く美人でとてもしなやかな指揮をするドイツ人。ザルツブルグでは2020年に「コシ・ファン・トッテ」を指揮して大人気になった。今回は指揮も演出(ネシャトとシュタイアーも)女性ということで、オペラ界は「女性の時代?」と話題を呼んだ。

 

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