パリから行く小さな旅 エペルネでシャンパーニュ三昧
2023年09月04日
パリからの小旅行に出かけるなら、一番のおすすめは、シャンパーニュ地方。なかでもエペルネはシャンパン好きなら一度は行きたい憧れの地ではないでしょうか。お酒は苦手、という人でも美しい葡萄畑が広がる風景や小粋な町並みには感動するはずです。
こぢんまりとした街は、緑の並木道には邸宅が立ち並びシックで洗練された、“これぞフランス!“といった優美な雰囲気。パリとはまた一味違うフランス流洗練を垣間見ることができます。
シャンパーニュ地方はパリからTGV(高速列車)に乗って中心都市ランスまで約50分。エペルネへは約1時間20分。シャルル・ド・ゴール空港の鉄道駅からは、TGVの直行電車もありますので、夜便の飛行機なら日本に帰る前に寄ることができます。せっかくフランスに来たのにパリ以外に時間がなくてどこにも行けなかった、と残念に思っていたら、ぜひ、最後の寄り道にトライしてみてください。
シャンパーニュ地方は世界遺産に登録されており、エペルネのメインストリート「アヴニュー・ドゥ・シャンパーニュ(シャンパーニュ大通り)」もその一つです。緑深い並木道の両側にはシャンパーニュで財を成した人々が建てた邸宅が並び、博物館やメゾンが立ち並ぶシックな通り。地下には複数のメゾンのカーブが広がり、総延長は100キロメートル 。2億本ものシャンパーニュが熟成されているそうです。
ちなみに、シャンパーニュ地方のブドウ畑の総面積は3万5000ヘクタール。15000軒ものヴィニュロン(ぶどう栽培家)があるとのこと。それぞれのメゾンの地下には白亜質のセラーが広がり熟成中のシャンパーニュが貯蔵されているのです。
寄り道が楽しいシャンパーニュ通り
こぢんまりしたエペルネ駅を降りて徒歩15分ほど、まず寄ってみたいのは、シャルル・ド・ゴール大広場にある係留型気球「ル・バロン・デペルネ(Le Ballon d’Epernay)」。大気の状態が安定していれば、気球はワイヤーが伸びて150mの上空まで上り、エペルネの市街や一面に広がるブドウ畑が続く壮大な眺めを楽しむことができるのです。大人料金は14€、プラス10€で上空でのシャンパーニュサービスも体験可能。気球が飛べない天候の時には、VR(バーチャルリアリティ)のヘッドセット(写真下)が用意されており、本来の眺めを体感することができます。バーチャルだけでも上から眺める広大なブドウ畑はかなりの迫力です。
この地方を俯瞰で把握したところで、さらに数分進むとロータリーに出ます。何本かに分かれている通りのうち一番広く美しい並木道がシャンパーニュ大通りです。まっすぐ伸びるこの通りを進むと、すぐ左手に観光案内所が見えてきます。この案内所では、予約なしでシャンパンカーブを見学できるメゾンやツアーの情報なども用意していますので、予定が決まっていなければ寄って相談してみてください。案内所の敷地は広く、エントランスは町の観光スポットを巡回する可愛いトラムの出発点になっています。
その向いには広大な敷地のモエ・エ・シャンドン社があり、予約すればセラーなども見学可能。社屋の庭にはドン ペリニヨン修道士の銅像があり、写真スポットとなっています。
その先には、ペリエ・ジュエ(写真下)やボワゼルなどのお洒落なメゾンが連なります。メゾンの中庭は緑あふれるオープンエアのシャンパンバーになっておりツーリストも気軽に入れるので、ぜひ、優雅にシャンパンを味わいたいもの。さらにトロッコ列車に乗ってセラー見学を楽しむことができるメルシエのメゾンが続きます。日本語のオーディオガイドを聞きながらトロッコを模したミニトレインでカーブを巡ることができ、ソムリエさんの詳しい解説付きで試飲も可能です。
ゴージャスなミュージアムでシャンパンの歴史を学ぶ
2021年にこの通りにオープンした「シャンパーニュワインと地域考古学博物館(Le musée du vin de Champagne et d’Archéologie régionale)」は最大の見どころです。1849年頃に建てられたシャンパーニュメゾン「ペリエ・ジュエ」の当主ペリエ家の「Château Perrier(シャトー・ペリエ)」と呼ばれた屋敷とカーブを改装して作られ、歴史建造物に指定されています。建築家のピエール・ウジェーヌ・コルディエ氏が設計。4200㎡にも及び、当時流行していたレンガ、⽯、スレート、ガラスなどの素材を駆使し、まるで城のような豪華な邸宅となっています。パリ市庁舎やパリのオペラ座と同じ職人が手がけたという今も残されたゴージャスなエントランスや階段からは、往時の繁栄を感じるとることができます。広い庭園を散策すれば優雅な時間が流れます。
この屋敷をペリエ家の子孫よりエペルネ市が買い取り、シャンパーニュに関連する品々が展示されたミュージアムへと変貌させました。
10部屋に分かれた各展示室は、数百万年前のシャンパーニュの土壌の形成からシャンパーニュ地方の歴史、物語、シャンパンに関する工具、機械、ボトルやグラスなどのガラス製品のほか、絵画、彫刻、装飾美術品、リトグラフなどテーマ別に集められた2000点もの見応え満点のコレクションをそろえています。タッチテーブル、バーチャルリアリティのヘッドセットなどデジタルデバイスを使ったモダンでインタラクティブな仕様となっており、楽しくシャンパンの知識が得られます。年間を通して多様なイベントが用意されていますので、訪れる前に調べておくとよいでしょう。
現代アートフェスティバル「ヴィニャール」
左から『Royale Brut enmagnums(ジョゼフ・ペリエ)』『Blanc de blancs Grand Cru2013 en magnums(ド・サンガール)』『P181, champagne BiologiqueExtra Brut(カナール・デュシェーヌ)』『BrutNature Mono Cru Le Mesnil-sur- Oger(ロンバール)』『Brut sous-bois en magnums(ビルカール・サルモン)』『Brut Rosé Marquise de Mun, Rosé de Saignée base 2006(ドゥ・ヴノージュ)』
エペルネ市後援の現代アートフェスティバル「ヴィニャール(VIGN‘ART)」もその一つです。「ブドウ園における現代美術とランドアート推進協議会」が主催し、シャンパーニュ専門誌『ビュール&ミレジーム(Bulles & Millésimes)』のジャン・バチスト・デュトゥルトゥル氏を中心に催されました。
シャンパーニュのブドウ畑を背景にして、現代アートとランドアートを融合させたイベントです。オープニング記念として、「シャンパーニュワインと地域考古学博物館」で、フェスティバル「ヴィニャール」の夕食会が開催されました。
料理を担当したのはホテル「ダングルテール」の1つ星シェフ、ジェローム・フェックシェフと「ドメーヌ・レ・クレイエール」の2つ星シェフ、フィリップ・ミルシェフ。6本の高級キュヴェとともに華やかな宴が行われました。
1584年の創設で、400年以上の歴史を持つシャンパーニュで最も古いワインメゾン「ゴッセ」は、芸術活動の支援に積極的に行い、フェスティバル「ヴィニャール」に参加し、車内の庭園内に「ル・ルミュアージュ」と題する作品(写真上)を紹介しています。
ほかにもエペルネ近郊の町には、シャンパン・メゾンがたくさんあります。たとえば、シャンパーニュ地方に17あるグランクリュのひとつ、アイ村。エペルネから電車で4分、車で10分ほどで見どころも多く、ボランジェ、ドゥーツ、アヤラ、アンリ・ジローといった有名メゾンだけでなく、小規模生産者も多数ありますので、家族経営のアットホームなメゾン回りも楽しめます。また、シャンパンを楽しみながら学べる施設「プレソリア(PRESSORIA)」が2021年にオープン、話題となっています。
グループ向きのシャンパーニュ・バスツアー「ランペリアル・ド・マリー・アントワネット」を利用するのもおすすめです。高さ 3.5 メートルのパノラマラウンジを備えたユニークな2階建てバス。オープンエアーのバス2階でシャンパーニュを味わいながらシャンパーニュ観光ができ、さまざまな観光プランを用意されています。
没入型感覚体験で理解する「プレソリア」
「プレソリア」は、没入型の感覚体験を通して、歴史的遺産のシャンパーニュを理解できる画期的なプロジェクト。シャンパーニュ「ポメリー」が19 世紀末から使っていた圧搾所で、チューダー朝のアーチなど当時のアングロサクソンの建築様式の建物を改装して作られた施設です。部屋ごとにユニークで革新的なコンセプトとインタラクティブな技術デバイスが備えられ、ブドウとワインについて多角的に楽しみながら学ぶことができます。目の前に広がるブドウ畑を眺め眺めさまざまなメゾン、ドメーヌのシャンパーニュを試飲できるテラスや1階のレストランで食事を楽しむこともできます。
また、エペルネとシャンパーニュ地方最大の都市ランスの間はローカル線があり、35分ほどと近いので、ランスの町と掛け合わせて巡るのもおすすめです。
シャガールのステンドグラスが見どころの三大ゴシック大聖堂の一つである「ノートルダム大聖堂」や隣接する大司教公邸トー宮殿とバシリカ建築のサン=レミ旧大修道院など、世界遺産も点在し見どころ満載です。
1930年創業の老舗カフェ「カフェ・デュ・パレ(Café du Palais)」アールデコの天井がレトロな雰囲気の中で気軽に一杯はシャンパーニュ地方ならでは。シャンパンだけでメニューの1ページが埋まるほど種類が豊富です。星付きレストランも多数あり、美食を満喫するには最適のルートです。次回のフランス旅行には、ぜひ組み込んでみてはいかがでしょうか?
エペルネ観光 https://www.epernay-tourisme.com/en/
シャンパーニュワインと地域考古学博物館https://archeochampagne.epernay.fr/en/home/
プロソリアhttps://pressoria.com/en/https://imperiale-marie-antoinette.fr/
ル・バロン・デペルネ https://www.ballon-epernay.com/en/
ヴィニャールhttps://www.vignart.fr/
Photos © Alexandre Couvreux(エペルネ・シャンパーニュ博物館) © BOEGLY+GRAZIA(プレソリア)
text&photos Miki Yamashita
「地上最後のシャングリラ、安息と癒しのブータン vol.4」