南仏から届く世界最高峰の味「ミラズール」マウロ・コラグレコシェフによる「CYCLE 」東京にオープン

カテゴリー/ GOURMET |投稿者/ Gouret&Traveller
2023年11月09日

南仏、マントンにある三つ星レストラン、「ミラズール(Mirazur)」。「世界のベストレストラン50」1位にも輝く、マウロ・コラグレコ(Mauro Colagreco)シェフによる「スィークル(CYCLE)」が202310、大手町にオープンした。ビオディナミ農法の4つの要素、「根、葉、花、果実」の「循環(CYCLE)」をテーマに、自然への敬意と、その循環するエネルギーを料理で表現しながら、斬新な美食の世界を都会の中心から発信していく。

 

 

美食に対するリスペクトが導いたフランス料理への道

マントンにある地中海を望む「ミラズール」

南仏ニースからイタリアのヴァンティミリア行きの電車に乗り、地中海の絶景を眺めながら約40分。「フランスの真珠」と呼ばれるイタリアとの国境近くのレモンの町、マントンに到着する。紺碧の海とオレンジや黄色のカラフルなイタリア風の建物が連なる優美な景観にジャン・コクトー美術館などを擁する芸術と歴史の町。コートダジュールの海を望む絶好のロケーションに「ミラズール」がオープンしたのは2006年。マウロシェフがパリで修業を終え独立するために物件を探していた時にすすめられたのが、マントンだった。

「パリに店を持ちたかったのですが、マントンに来てみて一目で気に入りました。ここで野菜を育ててみたい、と夢が広がり即決したんです」

コートダジュール特有の太陽をいっぱいに浴びて育った野菜や地中海の新鮮な魚介、地元のオリーブオイル、山のチーズ、レモンをはじめ町中に実る果物。料理の幅が広がる多種多彩な食材を見てインスピレーションが湧いた。こうしてミズラールはマントンに誕生した。

 

マウロ・コラグレコシェフ

アルゼンチン出身のマウロシェフが、料理人の道に進むことを決めたのは23歳の時。フランス料理を学びたいと、ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカス、ギー・マルタンの4人に偉大なシェフに師事した。

「曾祖父はイタリアの出身、祖母はポルトガル系、妻はブラジル人。子供の頃から両親と旅をすることが多く、大人になってからも1人でいろいろな国を訪れ、多国籍の文化に触れてきました。その中で一番興味を持ったのが、各地の食カルチャーだったんです。今も昔も食べることがなにより好き。それが料理人の道をめざした一番の理由です(笑)。世界中のグランシェフのレシピ本を入手して独学で料理を学んでいました。なかでもフランス、スペイン、アメリカのガストロノミックな料理に惹かれたのですが、偉大な料理人には共通点があり、それは少なからず、どのシェフもある時期フランス料理を通っているということだったんです。それなら、フランス料理を専門的に勉強してみよう、と考え、23歳の時、フランス南西部、ラ・ロシェルの料理学校に入りました。父が会計士だったので、跡を継ぐため大学で経済を学んでいたのですが、料理人の道へと大きな方向転換を決めたのです。まず、フランス料理を学んでみて、そのあとどの分野に進むかを決めればいい、と、軽い気持ちでフランスに来たのですが、すっかりフランスが気に入ってしまって、以来約25年、現在に至ります」 

 

 

「ミラズール」をオープンしてから間もなく快進撃が始まる。6か月でミシュランの1つ星を獲得。 2009年には、『ゴーエミヨ(GaultMillau)』でフランス人以外のシェフとして初めて「今年のシェフ賞(Chef of the Year)」を受賞。2012年にミシュラン2つ星、2019年版で3つ星獲得、同年「世界のベストレストラン」でNo.1シェフに輝いた。

「星やランキングを意識して料理を作ったことはありません。同じ場所で約20年料理を作り続けて、テクニックや感性など進化することができたのかもしれない。それが結果につながったのならうれしい。でも、料理を作るモチベーションは一つだけです。ゲストに美味しいと言ってもらえること。より質の高い食材を探して上質な料理を作り、ゲストに喜んでもらいたい、それだけが私の料理人としての目標です」

美食を尊ぶ文化があり、並々ならぬ食材へのこだわりがある。それがマウロシェフがフランスで料理を作っていこうと決意した理由だ。フランスの食材は多彩でクオリティも高い。2010年からは、店の敷地で自家菜園を始め、14年からは、ビオデナィミで野菜を栽培している。ワインを作る時によく用いられている手法で、太陽や月の運行に合わせて農作業を行う。太陽と月の間に地球がある満月の時期は、植物の生命力が強くなり、太陽と地球の間に月があり、月が地球の影になる新月の時期は、植物の生命力が弱まる時期だという。

「日本人の福岡正信氏の自然農法に深く感銘を受け、ビオディナミを始めました。今となっては料理人兼農業従事者といってもいいぐらい、畑仕事に時間を割いています。店で使用する約半分の野菜を自分たちの畑でまかなっていますが、地元の生産者を訪ねて良い食材を探すことも欠かせません」

 

都会から発信するサステナビリティの精神

日本初のマウロシェフのレストラン「スィークル」は、レストランと美食の体験を通して、自然の美しさ、循環するエネルギー、生物の相互作用を再表現したい、との思いから名付けられた。

「ミラズール」では、「土壌と生物多様性の保全」という目標を掲げ、サステナビリティにも取り組んでおり、2022年には、生物多様性のためのUNESCO親善大使に指名されている。「スィークル」においても使い捨てプラスチックは避け、地域の食材を極力使うなど持続可能に注視している。レストランのエントランスあたりの、大手町のビジネス街の一角には小さな菜園も設けられ、スタッフが土に接する機会を日常的に持つことで、「ミラズール」の哲学を表現していく。

 

 

シグネチャーディッシュ「ビーツ/キャビア」(上)とデザート「ナランホ・エン・フロール」

「日本料理とフランス料理はまったく異なるようで、ベースには共通のものが流れています。どちらも食材や季節感を大切にする洗練された料理。『CYCLE 』では、日本の食材を使って『日本のフランス料理』を作っていきたい。

パリや東京のような都市では、食材は各地から集まってきますが、マントンのような田舎では自らの足で探しにいかなくてはならない。東京でも自分達の足で探し歩く『ミラズール』流を踏襲していきます。

オープン前には多くの生産者と会う機会がありました。作り手のこだわりが群を抜いて優れた食材を生み出していることに感激しました。たとえば、野菜は千葉にあるエディブルフラワーとハーブ農場の苗目で栽培したものです。フランスの『ミラズール』同様、近隣の生産者と連携しながら、土壌を守る再生農法や、古来種の利用にも取り組んでいきます」

 

日本でのメニューは、マウロシェフの愛弟子、「スィークル」を託された宮本悠平氏(写真左)とともに考案する。宮本シェフは、2019年にミラズールチームに加わり、見習いから部門シェフを経て、スーシェフに昇進。マントンの自然に恵まれた環境の中、生命と自然のサイクルに結びついたマウロシェフの料理とそのフィロソフィーを学んだ。

その日のメニューの中で廃棄されるような野菜の皮、茎などからだしを取り、季節の香りを添えた「ウェルカムブイヨン」から始まり、「種のライフスタイル」をテーマにした4皿は、根=誕生、葉=成長、花=再生、種子=再誕生というそれぞれのテーマを季節を表現した美しいプレゼンで登場。続く皿の数々はどれもメッセージ性が濃く現れている。「ミラズール」のシグネチャーディッシュ、「ビーツ/キャビア」とデザートの「ナランホ・エン・フロール」は、本店と同じアプローチで日本オリジナルに仕立てられて提供され、本場の味を感じることができる。

 

南仏と和を融合した都会のオアシス

入り口で迎えてくれるのは、2本の樹齢300年を超えるオリーブの木。 Otemachi One Garden」に面した店内からは、緑豊かな広場や水景が望める都会のオアシスだ。店内に足を踏み入れると、約9メートルの天高と、天井まで届くガラス張りの窓に囲まれ、まるで海外のレストランに訪れたかのような開放的な空間。

2500 年前に山体崩壊した際の埋れ木を店内のオブジェやテーブルに使い、版築という日本の伝統的な左官技術を用い地層のような風合いを出した壁など、自然の雄大さと日本の伝統を融合させたインテリア。南仏らしいリネンのナプキンは一枚ずつ異なる刺繍が施され、店の名刺にはなんとハーブの種が埋め込まれている。

「食は世界の共通語です。テーブルを囲むと言葉は通じなくてもみんなが幸せを共有することができます。だから、料理だけではなく、食にまつわるすべての細部に至るまでこだわりがあります。東京で店を出すことになり、何軒か見てまわりましたが、都心にこれだけ緑があるロケーションはありません。ここなら南仏の雰囲気を再現できるのではと思い、さまざま工夫を凝らしました。あとは地中海の眺めがあれば完璧ですね ()

料理やドリンクだけでなく、店の隅々にまでメッセージを感じる。南仏を感じつつ生命の循環についても思いを馳せながら、マウロシェフの物語を味わってみてほしい。

text Miki Yamashita

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