石戸谷結子の世界オペラ散歩⑤・ミュンヘン・オペラ・フェスティバルで絶賛、カウフマン

カテゴリー/ VISIT |投稿者/ Gouret&Traveller
2017年09月16日

クラシック音楽、なかでもオペラを専門に、多数の評論を執筆。難しく思われがちなクラシック音楽をわかりやすく解説し、多くのファンを持つ音楽ジャーナリスト、石戸谷結子さんが、世界の劇場を巡り、オペラの楽しみ方を教えてくれる連載、「石戸谷結子の世界オペラ散歩」。第5回目は、ミュンヘン・オペラ・フェスティヴァルでバイエルン州立歌劇場に2公演出演した人気随一のテノール、「ヨナス・カウフマン追っかけ」をレポートしていただきます。

 

 

 

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今度の旅の最大の目的は、「ヨナス・カウフマンの追っかけ」だった。ロイヤル・オペラの「オテロ」はカウフマンにとって初役という重要な公演だったが、ミュンヘンのオペラ・フェスティヴァルは故郷に錦を飾る凱旋公演のような晴れがましい舞台。キャンセル魔といわれるカウフマンもミュンヘンならリラックスして歌えるらしく、キャンセルは殆どしていない。それにミュンヘンっ子たちは、誰もが皆カウフマンを誇りにしており、ホテルのスタッフもタクシー運転手も「彼はミュンヘン生まれなんだ」と胸を張る。

 

 

 

 

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ミュンヘンでは5公演を見たが、最初の演目はカウフマンが歌うヴェルディ「運命の力」。これが素晴らしい公演で、見終わったあと、感動で言葉が出ないほどだった。すでに2013年12月にプレミエ上演された演目で、カウフマンも何度か歌って、歌唱も演技もすっかり手の内に入っている。マーティン・クシェイの演出は、戦時下にある人間の異常心理を描いた暗く陰惨な舞台だが、スピーディで動きがある。役柄がインカ帝国の末裔という設定なので、長い黒髪でジーンズ姿のカウフマンは机の上に飛び乗るなど、アクティヴに動き回りながら、情熱的な歌唱を聴かせた。レオノーラを歌うアニヤ・ハルテロスとのコンビは息がぴったりで、最後まで緊迫感に溢れ、手に汗握る迫力ある公演だった。ハルテロスもこの日は絶好調で、第2幕の「悲しみの聖母」と4幕の名アリア「神よ、平和を与えたまえ」を熱唱。結果的にこの公演が最も感動的だった。

 

 

 

 

 

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翌日からロッシーニの「セミラーミデ」、ドニゼッティの「ラ・ファヴォリータ(写真上)」、オッフェンバックの「ホフマン物語」と見て、最後の公演はカウフマン主演の「アンドレア・シェニエ」(写真下)。今回最も期待していた演目だ。今年の5月にプレミエを迎えたばかりの新しいプロダクションで、この公演も相手役のマッダレーナは、アニヤ・ハルテロスという美男美女のカップル。フランス革命の混乱のなかで、断頭台の露と消えた実在の詩人、アンドレア・シェニエの悲恋を描いた作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

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登場のアリア「ある日青空をながめて」をヒロイックに力を込めて歌い、2幕の愛の2重唱ではハルテロスと甘いデュエットを繰り広げる。3幕ではハルテロスが名アリア「母は死に」を深い感動を込めて歌いあげた。そしてフィナーレ、二人は「愛の勝利を讃えよう」とドラマチックな二重唱を熱唱し、嵐のような拍手のなか幕が下りた。フィリップ・シュテルツルの演出は、舞台をいくつもに区切り、多くのドラマが同時進行で動くので、肝心のアリアや二重唱の印象がぼやけてしまうという欠点がある。DVDで最初に見たときは面白いと思ったのだが。 

 

 

 

 

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 5演目の中で、演出が最も面白かったのが、ロッシーニの「セミラーミデ」だった。セミラーミデ役はジョイス・ディドナート(写真)、彼女が愛する息子役はメゾ・ソプラノのダニエラ・バルッチェローナという、これも大スター同士の競演。女王セミラーミデは愛人と手を組んで夫である王を殺害したものの、若くハンサムな士官に心を移す。しかしその士官は、なんと自分の息子だった。最後にセミラーミデはその息子に殺されてしまう。

 

 

 

 

 

 

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 お話は古代バビロニアが舞台なのだが、演出家のデヴィッド・オールデンは、これを現代の独裁者国家での権力争いの物語に仕立て上げた。舞台には巨大な銅像が出現したのだが、なんとそれは、右手を挙げている北朝鮮のキム・ジョンイルの銅像。そこに怪しげな宗教指導者も登場して、おどろおどろしくも、ヘンでおかしいドラマに変貌した。歌手たちは素晴らしく巧く、演技も上手い。そのせいで、4時間もかかる長いオペラがあっという間に終わってしまった。演出家のオールデンはアメリカ人だが、ファンタスティックな才能を持った、現代最高の演出家の一人。
 ミュンヘンは、ご当地出身のルートヴィッヒ二世とカウフマンという二人のイケメン・スターを堪能できた旅だった。
 

 

 

石戸谷結子(音楽評論家)
Yuiko Ishitoya, Music Journalist
青森県生まれ。早稲田大学卒業。音楽之友社に入社、「音楽の友」誌の編集を経て、1985年から音楽ジャーナリスト。現在、多数の音楽評論を執筆。NHK文化センター、西武コミュニティ・カレッジ他で、オペラ講座を持つ。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。

 

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