2023年07月01日
今はただ、「幸せの国」という漠然とした憧れを抱かせる未知の国。この地の魅力を最大限享受できるよう、旅人はただ無の境地、フラットな心でいればいい。限りなく清廉な気が流れるこの地で、「シックスセンシズ」という桃源郷が心を満たしてくれるからだ。
気高い価値観と崇高なる精神性を共有するリゾート誕生
ブータン西部と中央部の渓谷、パロ、ティンプー、プナカ、ガンテ、ブムタンに点在する5つのロッジを擁する「シックスセンシズ ブータン」。今回の旅で待っているのは、「シックスセンシズ ブータン」ティンプー、プナカ、パロでの心整うステイである。
まず向かうのは、標高およそ2,650mに位置し、町の南にある谷の斜面に建てられた、ティンプー渓谷を一望できる絶景パラダイスだ。
VISAの取得も必要である。直行便はなく、日本からは、バンコク経由でブータンの国際空港パロに入るのが一般的だ。
バンコクからパロまではブータンエアーで約3時間15分。乗り込んだ機体にはブータンの国旗に描かれている神々しい龍が舞う。ブータン人は、ブータンを「ドゥク」(Druk、雷龍)と呼ぶ。チベット語の方言で「龍の地」が由来だという。
滑走路ギリギリに水田や家屋が並ぶブータンの風景を窓越しに眺めつつ到着した機内から外に目を向けると、麗しいブータンの伝統的な様式美に彩られた空港ターミナルが現れる。あまたの空港に降り立ってきたが、まちがいなく世界一美しい空港ではないだろうか。
入国審査を抜けて外に出ると、華麗な装飾が施されたブータン様式の門の向こうに民族衣装に身を包んだガイドたちがゲストを待つ姿が目に入る。長い旅の果て辿り着いたブータンの旅が始まった、そう感じた瞬間だった。「Six Senses」のボードを持って迎えてくれたのが、Phub Dem さん、Emgij Yrrekさんの美形コンビである。
空港から「シックスセンス ティンプー」まで、車で約1時間半。道すがらブータンの基礎情報や歴史を詳しく語ってくれる。ちなみにブータンの公用語はゾン語だが、学校教育が英語で行われるため、ほとんどのブータン人はバイリンガルである。
ヅェツン・ベマ・ワンチュク王妃のInstagramより、ワンチュク国王と王妃。結婚式を挙げて一か月後に夫妻で来日。凛とした気高さに日本人はブータンへの憧れを強く持った。
ブータンが日本で脚光を浴びたのは、2011 年に 国王夫妻が来日して、現ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク第5代国王が国会でスピーチを行った時だ。
GDP(国内総生産)を目指すのではなく、GDH (国民総幸福量)を掲げる国であることを誇り高く宣言。「秘境」から「幸せの国」へ、ブータンのイメージが180度転換し、日本からの旅行者も爆発的に増加した。
国民の心の拠り所、ワンチュク国王
民族衣装「ゴ」をまとった端麗なワンチュク国王のエレガントな振る舞い、人徳と品格を感じさせるスピーチは、日本人にも強烈な印象を放った。オックスフォードで政治学を学んだワンチュク王の立憲君主制が目指すのは、伝統文化・自然環境の保護を第一に、教育、医療の普及や産業育成などの近代化と調和させる政治だ。
ワンチュク国王は、立憲君主制への移行を発表した際、国民が大反対したという逸話があるくらい国民に愛され、心の拠り所となっている。国王を慕うあまり、国民の大半が国王の顔写真をバッヂにして胸につけているほどだ。
安寧の空間と心尽くしのもてなし、圧巻の景観
写真上から、「シックスセンシズ」の支配人とスタッフ(左2人)とガイドのブブディムさん、エムジェレクさん。「シックスセンシズ ティンブー」のインフィニティプールはヒマラヤへ向かい、祈りの聖なる館が建つ。一面の窓にインフィニティプールと連なる山々、望遠鏡は大仏クンセル・ボダンに焦点があてられている。ロビーではなくリビングルームが広がるなか、差し出されたプレゼンテーションも美しいウェルカムドリンク。
そんな話に興じながらホテルに到着すると同時に扉が開きスタッフが迎え入れてくれる。その先の大きな窓の向こうにはインフィニティプール。そして、ヒマラヤの山々が層をなして迫り来る。遥か遠くの正面にはティンプーの大仏クンセル・ボダンがわずかに視界に入る。その大仏に正確に焦点を合わせた望遠鏡も用意されていた。
ハーブと果物をミックスしてジンジャーなどを加えたウェルカムドリンクを一口、喉を潤しながら足を踏み入れると広がるのは、居心地の良さそうなリビングルーム。知り合い宅を訪ねてきたかのような温もりに精神も肉体もすっかり弛緩する。ここでは、チェックインカウンターやロビーは邪道である。
ナチュラルでウッディなロッジだが、ブータン様式の窓枠や装飾が美しい。山々の風景が部屋の一部となるようにデザインされた全面の窓。ボディソープ、シャンプーなども洗練されたボトルに詰められる。ガラスのボトルには、自家製のレモネードやフルーツ、ハーブのアイスティーなど。ライムも用意されている。
広大な敷地に76㎡のスイートが全20室、1ベッドルームから3ベッドルームまでヴィラを5室が点在する。カートで緩やかな山道を登って部屋に入ると、全面窓に映るのは雄大な山々の眺めのみ。ゆったりくつろげるソファーに深々と体を埋めて、絵画のような光景を見つめる。
クーラーには、地元産のワインやクラフトビール、ガラスのボトルに詰められた自家製のハーブ入りレモネードやアイスティーが入っている。ライムを絞ったドリンクに疲れを癒されながら、明日訪ねるこの山の向こうの町、ティンプーに思いを馳せる。
To be cotinued…
地上最後のシャングリラ、安息と癒しのブータンvol.2. https://groumet-traveller.com/14564.html
地上最後のシャングリラ、安息と癒しのブータンvol.3 https://groumet-traveller.com/14755.html
地上最後のシャングリラ、安息と癒しのブータンvol.4 https://groumettraveller.com/14969.html
text&photos Miki Yamashita、ブータン政府観光局