再訪したい美食空間 東京ファイル① 「由庵 矢もり」蕎麦愛にあふれる店主が目の前の石臼で手挽きにするライブ感を楽しむ

カテゴリー/ GOURMET |投稿者/ Gouret&Traveller
2017年03月28日

世界のグルメ・シーンを長年取材してきたグルメ&トラベラーが、取材で食べ歩いて見つけた「思わずリピートしたくなる美味な店」をご紹介する連載、「グルメ&トラベラー 再訪したくなる美食空間 東京ファイル」第1回目は、蕎麦の名店「はなれ」で蕎麦通をうならせていた蕎麦打ち名人、矢守昭久さんが満を持して独立してオープンした店、「由庵 矢もり」にご登場いただきます。

 

 

 

640x640_rect_54514223蕎麦を手で挽くところから打ち上がりまでを目の前で見ることができる店として蕎麦通に愛されてきた「はなれ」が、2014年、のれんをおろす知らせを出したのは、矢守昭久店長の独立、という理由からだった。蕎麦愛を語らせたら止まらない、稀有な蕎麦オタク、矢守さん独立に蕎麦業界は浮足立った。新店舗は月島という意外な場所。もんじゃ街の小さな路地を入った民家に極力目立たないよう看板をかけ、隠れ家のごとくのひっそりたたずむ。「旨い蕎麦前と旨い蕎麦が食べられる店」のみを天命ととらえ、まさに一意専念の心意気。もちろん一見さんが入れる雰囲気は皆無だ。それほどひっそりとした営業にもかかわらず、オープンして1年半ほどでミシュランの星がついた。

 

 

 

IMG_9876細い路地にようやくたどり着いたレトロで素朴な下町の民家の戸をがらりと開けると、店内には「凛」とした空気が流れ、白木の高級感が漂うカウンター、奥には厨房と手引きの石臼が置いてあるのがみえる。照明も抑えた白熱灯の光で木のぬくもりを感じる、カウンター7席、2階に座敷1室。質素で柔らかな侘び寂び空間に靴を脱いで迎え入れられ、カウンターに腰をおろすと矢もり劇場のスタートである。蕎麦はアリス石と小和清水石、御影石など4個の石臼を使い、手挽きで蕎麦粉を挽き分けて打つ。挽きたてならではの芳醇な香りとフレッシュな旨味がそば好きにはたまらない。目の前の石臼で手挽きにするライブ感を思う存分味わえるのもこの店ならではの醍醐味だ。お任せのコース仕立て(6500円~)でお蕎麦が満喫できるだけでなく、店主の強烈な蕎麦愛へのトークも愉しめる。

身体に良い、優しいお料理がコンセプトの1つ。調理手法として「揚げ」は矢守さんの信条のなかにないため、蕎麦屋の準主役、天ぷらの存在はない。だしがしっかりと効いているが、関東の塩分の濃い出汁をイメージしていると少し違う。かといって関西風の薄味ではない。矢守さんならではの「矢もり風のまろやかでコクの深いだし」とでもいおうか。

 

 

 

 

 

IMG_9872お通し「酢だいず」酢と酒とみりんでつけた山形の大豆 
シンプルの極み、大豆そのももの味と食感に矢守流の調味法でひとつぶずつコーティングされたうま味を加味。  
蕎麦の実とうるいの雑炊
まろやかな出汁にふわっと炊かれた蕎麦の実に、うるいが時折しゃきっと、食感を刺激する。

 

 

 

 

 

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「炊き合わせ」4種 
煮びたし/芝エビとつぼみなとえんどう豆のおから/つぶがいと庄内あさつきとわかめの酢味噌和え/根三つ葉、あさり、うど、せり 花豆、ほたるいか、えのきとジャコの山椒煮
蕎麦はビタミンBが豊富ながら他の栄養素がないので、それを補うためにに30品目の食材で組み立てた料理をつくっているというこだわり。いずれもていねいな仕事ぶりうかがえる料理の数々。おばあちゃんに教わった味付けをベースにしているというヘルシーな品々は季節感もたっぷり。

 

 

 

 

 

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蕎麦がき 
石臼の上に置いた蕎麦の実は、遠目にも驚くほど青く美しい。秋田の蕎麦を手挽き石臼で実を挽き、その挽きたての蕎麦粉で「そばがき」を作ってくれる。手挽き石臼ならではのなんとも深く静かな響き。なんとも豊かなかぐわしさ。ふわふわと立つ湯気は、ふっくらとした蕎麦の香りを漂わせ鮮やかな緑。野性味もあり、やや粗めの舌触り。耳たぶほどに柔らかく、舌触り滑らかで甘く溶けていく。沖縄の塩{ナトリウムが少ないから良いとのこと)をつけて食べると蕎麦の旨味が増す。

 

 

 

 

 

IMG_9879鰊/自家製蒟蒻/だし巻/ふき/菜の花のおひたし 

3日かけて炊かれた鰊は、ほろほろっと柔らかく、上品な鰊の旨みが広がる。王道の鰊にこれもまた蕎麦屋の王道、だし巻玉子も添えられ、自家製蒟蒻にも鰊のだしが染み、口当たり抜群のコシが口どけのよい2種の料理を締める。

 

 

 

 

 

IMG_9880蕎麦サラダ
 
「サラダ」と呼んでいても店主にとっては 蕎麦に足りないビタミンCを補える「ぶっかけ」であるという。食べやすい長さの細切り蕎麦に、千切り大根、水菜が瑞々しく和えられ、風味豊かな胡麻だれに韃靼蕎麦の実の風味が香る。

 

 

 

 

 

IMG_9881温かい蕎麦 福井山室町十割蕎麦 
漆器のふたを開いた途端、漂う蕎麦本来の香り、澄んで清らかなだしには、鴨の旨みが染みわたる。しっかりと腰があり、きめ細かな上品な鴨の滋味がじわりと迫りくる。

 

 

 

 

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京都の南丹市のせいろ 

挽き立て、打ちたての十割のもり蕎麦の盛り付けの端麗さ。鮮やか過ぎるほど緑の、摩周の新そばの香りは、清々しくも、じっくりと熟して鼻孔をくすぐる。つけ汁は江戸前の辛汁で鰹節は抑え目。ふっくらした蕎麦を手繰ると汁と絡み、奥深い味わいがすーっと広がる。

 

 

 

 

 

 

IMG_9883蕎麦蒸し羊羹 
歯ごたえがあり甘さ控えめな粗挽きな羊羹で締める充実のライブ蕎麦コースだ。

 

 

 

 

 

 

IMG_9884「由庵 矢もり」

東京都中央区月島3-9-7
03-6225-0633
18:00~22:00 (完全予約制)
日・祝・月曜昼定休

 

 

 

 

 

 

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