旬のスイーツリレー⑧至高のアート作品を求めて行列ができるケーキ店「タンドレス」

カテゴリー／ GOURMET ｜投稿者／ Gouret&Traveller
2017年09月30日

連載「旬のスイーツリレー」8回目は、「デセールル・コントワール」の吉崎大助シェフ推薦、全国から訪れる人々が列をなして待つ、週に3日しかオープンしない隠れ家パティスリー、京都「タンドレス」の山口貴之シェフです。

pâtisserie Tendresse（パティスリータンドレス）

一番乗りは朝の7時。オープンの11時半には、30名ほどが列をなしている。けしてアクセスが良いとはいえない京都・一乗寺の閑静な住宅街にある瀟洒な個人宅前に並んで待つ人々は、今日ショーケースに並ぶケーキについて熱く語り合っている。いまでは全国各地から至高のケーキを求めてマニアが集まる「pâtisserie Tendresse（パティスリータンドレス）」。

パティシエの山口貴之さんがほとんどすべてを一人で仕切るため、週に3日しか販売されない、選りすぐりの素材で綿密に組み立てられるアート作品のようなスイーツ。登場するケーキの種類は週変わりで、ホームページで発表される「今週のメニュー表」をファンは待ちわびている。

イートインもあり、できればその場で食べてほしいというほど繊細なケーキの数々。テイクアウトには、ケーキの詳細がわかる説明書が渡され、「冷蔵庫から出して5分後くらいがベスト」など食べごろの温度帯までわかるようになっている。最善の状態でケーキを味わってほしいというパティシエの熱意に感動を覚えるほどだ。

山口シェフは、甘いもの嫌いだったのにもかかわらず、体調を崩した時にケーキを食べて元気になった。スイーツはこんなに人を幸せにできる、そんな仕事をしたいと思ったのがこの道に入ったきっかけ。大御所のパティシエにも師事したが、ほとんど独学だ。純粋に味だけを求めて遠くまでて来てもらうためには、究極のクオリティの高いケーキを作らなければならない。「競争相手はお客さま。真剣勝負です。お客さまに育てられてここまでの評価を得ることができた」と山口シェフは語る。

2週間先まで考えて焼き菓子も含めバラエティーに富んだ種類をそろえる。残りの日は仕込みと試作。毎日素材を見てインスピレーションを受ける。切り口の美しさにはこだわるが、デコレーションはテーマに合ったものが少しあればいい。
フランス菓子の本来の考え方は多様性。日本はシンプルの極みという引き算の世界。フランスは掛け算。これでもかと言うほどおいしい要素を投入する。おのずと味の構築が難しくなるが、技術を駆使してバランスをとる。多くの素材で味の調和を整えることこそがプロの技である。そして、なによりも、作り手の心が込められていること。それを具現化しているケーキが食べ手を熱狂させているのだ。

カプリス・マロン

パイナップルのジュレを上にのせ、有機栽培された栗をふんだんに使ったババロアと底には栗のダックワーズ。複雑な味と食感が交錯しながらも栗が主人公であることがわかる調和のとれた一品。

エレガンス

自家製のりんごのコンポートとシードルとブルゴーニュ産カシスが織りなす繊細なハーモニー。りんごのコンポートを作ってムースに仕立てる。りんごと相性の良いカシス、煮詰めたシードル、カルバドス、カシスなどを組み合わせる。柔らかいムースの中には印象を強めるためタルトタタンが入っている。味も濃厚、食感もバラエティに富んでいる。手のこんだりんごのバリエーションが楽しい。

アンペリアル

ムースショコラに2種類のビスキュイショコラとオレンジの果肉入りジュレ、プルーンの紅茶煮、ココアのクランブルに赤ワインソース添え。名前の通り「皇帝」のごとく堂々とした味わい。赤ワインのソースをカップに入れて別に添える。熱のダメージを受けないムースショコラを特殊な製法で作る。ポマード状のバターを泡立てた生クリームを使い、二つの素材を温度の操作でうまく混ぜ合わせた。甘さは感じないどっしりした濃厚なチョコレートそのものの豊かな味わいに柑橘が香る。

タンドレス